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2021.03.25 (木) 印刷する

司法に翻弄されない安全対策の構築を 奈良林 直(東京工業大学特任教授)

 運転を認めなかった司法判断は、今回の日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)に対する3月18日の水戸地裁判決までに7件あるが、大半がその後の高裁審理などで、運転容認へと覆っている。

同じ3月18日には、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)についても広島高裁が差し止め取り消しの決定を出している。これは去年1月、同じ広島高裁で「四国電力の活断層の調査は不十分で、阿蘇山噴火の想定も小さすぎる」などとして運転を差し止める決定を出したことに四国電力が異議申し立てをしていたものだった。

東海第二原発については、茨城県の広域避難計画に基づく地元自治体での避難計画の策定および避難訓練が不十分だと判断され、日本原電が敗訴した。

東京電力福島第一原発事故の後、多数の訴訟や仮処分の裁判で原発の安全性が争われている。再稼働の適否を判断するにあたっては、拘束力のある最高裁の判例が待たれるが、そのためにも、これら全国で多数行われている原発の訴訟について分析し、共通する対策を提言しておきたい。

避難計画の責任主体を明確に

伊方3号機については、2020年1月17日に広島高裁が運転差し止めの仮処分決定を下した後、この決定を同じ高裁の別の裁判長が一転して取り消し、運転を認めたものだ。

3月18日の決定は、伊方原発近くに活断層はないとした四電の調査に不合理な点はないと評価した。130キロ離れた阿蘇山の噴火の影響に関しては、四電の想定を過小とは言えないと指摘した。科学的知見を踏まえた妥当な見解である。

「四国電力の地震動評価は合理的で、住民側は地震動評価について様々な指摘をするが、いずれも採用することはできない」と結論した。破局的噴火の発生が確実で、原告に明確な命の危険が予見されないのであるから、合理的な判断である。

東海第二原発については、安全性が確保されていないとして茨城県など9都県の住民が運転差し止めを求めた。これに対して水戸地裁は3月18日、「実現可能な避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い」などとして運転を認めなかった。

避難計画や地元の防災体制構築は本来、自治体の責任であるが、地裁決定は原発の運営者側に原子力防災・避難計画の準備ができていないため、運転を認められないというものであった。つまり、原電の運営者側は地元自治体を個別に回って、広域避難計画の策定と訓練の実施を依頼しなければ、司法により運転が認められない可能性もあるということだ。

待たれる最高裁の統一判断

原発再稼働の是非は最高裁まで審理が上がらないと確定しないものの、下級審での敗訴という事実が続けば、地元住民の心象形成にマイナスの影響を及ぼしかねない。判決のたびに原発の危険性ばかりが強調されれば、冷静な議論も阻害する恐れがある。脱炭素や電力の安定供給に向けたエネルギー政策を誤らせることを懸念する指摘もある。

全国の原発訴訟で原告が用いる共通の論拠が人格権の侵害であるが、これは原告となっている住民に命の危険が迫っていることが明白でなくては成立しない。この人格権の乱用が、原子力基本法や原子力規制法などの法体系に則って審査される原子力規制委員会の審査を否定する事態を招いている。

そこで、提案したいのは、訴訟への配慮も念頭に置いた自主的な安全評価の策定と、その効果の周知活動である。筆者が委員をしていた愛媛県では、知事の指導により、国の基準の倍の余裕を持つことの確認が実施された。いわゆる、ストレステストで、それは明確に確認できた。

地震で原発の機器が損傷するとすれば、それは金属の弾性域ではなく、変形が進んで塑性域(針金を曲げたときに曲げが残る状態)の問題である。実際には耐久性で大きな余裕を持って設計されていることを明示・周知すべきである。

また、万万が一の場合でも地元を汚染しないフィルターベントがあれば、UPZ(緊急防護措置準備区域)の5~30km等の範囲は屋内退避となり、広域避難の様相が一変する。人格権の侵害も起きない。国も策定された民間指針を行政に導入すべきである。