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2021.03.29 (月) 印刷する

二階自民幹事長の人権感覚を問う 有元隆志(産経新聞月刊「正論」発行人)

 自民党の二階俊博幹事長は「政界寝業師」の異名をとる。政治家の存在感が軽くなったなかで、その発言に注目が集まる数少ない人物である。その言動はかつての金丸信自民党元副総裁を彷彿とさせる。金丸氏はボケた風を装って発信し、政局を自身の思う方向に引き寄せることを得意とした。ただ、過度の「金丸神話」を作り上げたことは、メディアにとっても反省すべきことであった。同様のことは二階氏にも言える。

現職「親中派」議員一の大物

最近の二階氏の動向を調べていて、驚くべき発言を見つけた。15日の記者会見での発言だ。

二階氏は産経新聞記者から、来年2月開幕の北京冬季五輪を控え、中国当局によるウイグル人らへの迫害の是正を中国側に働きかける考えはないかと問われると、「私の方から特に言及するつもりはないが、機会があれば議題にしてもいいと思っている」と述べたのだった。

「人権」問題は、「機会があれば」取り上げるテーマであろうか。二階氏は日米間で中国の人権問題の対応が焦点になっていることを知らないはずがない。

翌16日に行われた日米外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書で、「香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有した」と明記された。これに先立って同日行われた日米の外相会談でも、中国の人権状況について、「日米を始め価値観を共有する国がしっかりと声を上げていくことが重要である」との点で一致した。

足元の自民党でも、25日に開かれた党人権外交プロジェクトチームの会合で、日本ウイグル協会の于田うだケリム会長は「世界のウイグル人が家族と連絡できず、安否を確認できない状況が続いている」と窮状を訴えた。ウイグル人だけでなく、香港、南モンゴル、チベットの人々が中国当局による弾圧で苦しんでいる。

「ならば今こそ、中国との太いパイプを誇る親中派政治家の出番ではないか」。27日付産経新聞のコラム「産経抄」が皮肉たっぷりに訴えている。福田康夫元首相、河野洋平元官房長官らは引退しており、とすれば、現職の「親中派」議員の中でも一番の「大物」は二階氏である。

訪朝計画はリップサービス

二階氏は10日、超党派の日朝国交正常化推進議員連盟の役員会では「ここらで行動を起こさなければいけない。例えば、各党の協力をいただき訪朝を考えてみる。『拉致問題は一番大事』と言っているだけでは、向こう(北朝鮮)の人には通じない」と語った。拉致事件の解決に向けて、自身による訪朝の可能性も示したといえる。

もっとも、二階氏周辺の解説によると、「訪朝計画はまったくなく、議連の衛藤征士郎会長への単なるリップサービスに過ぎない。なぜなら二階氏は北朝鮮問題に関与してきた政治家の『末路』を熟知しているからだ」という。

金丸氏は平成2年9月に自民党と社会党の合同訪朝団の自民党代表として初訪朝し、金日成主席と会談したほか、朝鮮労働党との3党共同宣言では「過去に日本が36年間、朝鮮人民に与えた不幸と災難、戦後45年間、朝鮮人民が受けた損失について、謝罪し、償うべきだと認める」ことが明記された。拉致問題についての言及は一切なかった。

その後、金丸氏は巨額脱税事件で逮捕され、元麻布の自宅からは大量の金の延べ棒が発見された。

金丸氏の後に日朝関係に深く関与したのは自民党政調会長だった加藤紘一氏である。加藤氏も北朝鮮との窓口となった事務所代表による脱税事件の責任を取って自民党を離党、議員辞職した。

中国や北朝鮮問題での二階氏の一連の発言をみると、与党のリーダーとしてふさわしいとはとても思えない。

いま二階氏がすべきことは、かつてのように数千人の訪中団を率いるなどして中国に媚びることではない。中国の将来を本当に考えているのならば、人権状況を改善するよう自分から中国中枢部に働きかけることではないだろうか。