政府は3月26日、自衛隊施設周辺や国境離島など、安全保障上重要な土地の取引を調査し、外国資本の不適切な利用が明らかになれば規制するという土地利用規制法案を閣議決定した。今国会で成立させ、2022年度からの施行を目指すという。
これまでの政府の対応と比べると、大きな一歩を踏み出したといえるが、法案作成に当たって、公明党が「私権の制限」「経済活動の制限」につながるとして慎重な姿勢を見せ、結果、規制は個人情報保護に留意し「必要最小限のもの」と明記された。
政府は法施行後、対象区域の指定や調査の在り方を改めて示すというが、市街地の画一的な除外など規制の対象や内容が過剰に制限されることがないよう注視していく必要がある。
違反者には懲役刑含む罰則も
政府が防衛施設等の周辺が外国資本に買収されることに危機感を感じ始めたのは2007年頃から。対馬(長崎県)にある海上自衛隊対馬防備隊本部の隣接地が韓国資本に買収されたのがきっかけだった。
当時から外国資本による不動産買収を規制するルール作りを求める声が何度も上がったが、遅々として進まなかった。政府が手をこまねいている間に外国資本による防衛施設周辺の森林や土地の買収は増加。例えば北海道の場合、報道によると、3月24日の道議会総務委員会で、防衛施設などの周辺で、外国資本が取得した道内の土地は2019年12月末時点で約218ヘクタールとなり、5年前と比べて約3倍に増えたとする調査結果が報告された。
こうした現実を踏まえ、新法では、外国資本による不透明な不動産取得を監視するため、自衛隊拠点や米軍施設、海上保安庁の施設のほか、原子力発電所や軍民両用空港など重要インフラ施設の周囲約1キロを「注視区域」とし、不動産等登記簿や住民基本台帳などの行政データや所有者の報告などをもとに、政府に土地の所有者や利用実態などの調査を行う権限を与える。また、司令部機能を持つ自衛隊基地周辺や国境離島は「特別注視区域」に指定し、新たに土地を売買する際には事前届け出を義務付ける。
さらに、両区域内で、土地や建物の不適切な利用が確認されれば利用中止を勧告、命令できるとし、従わない場合や虚偽申告などの違反には懲役刑を含む罰則を設ける。
国家の重要要素としての国土
「国土(領土)」は「国民」「主権」とともに、国家が成立するための重要な要素である。ところが、わが国では、外国資本による不動産(国土)買収を規制するルールがなく、国籍を問わずだれでも、自由に売買、管理、処分できる。そこに、そもそもの問題があった。
今回の法案は防衛施設周辺や国境を背負う離島などを中心に論じられているが、重要な国土は防衛施設周辺だけではない。この十数年、太陽光発電所用地やリゾート用地にとどまらず、森林や農地、雑種地が目的不明、目的未定のまま外国資本に大量に買収されてきた。それらは今回の新法の規制対象になっていない。
国土利用計画法では、道路や河川等以外で公共的要素を備えた民有の地目としては、森林や農地、沿岸域がある。森林は、森林法で「国土の保全と国民経済の発展とに資する」とされ、農地は、農地法で「国民に対する食料の安定供給の確保に資する」と位置づけられている。民有地でも、国土の保全や公衆の秩序の維持という「公益的な機能」を果たすことが託されている。森林や農地は私的財産でありながらも公的な役割を果たすことが期待されているのだ。「国土の保全」や「食料の安定供給」という言葉には「安全保障」の断片を伺うことができる。
外資の土地所有に法の網は常識
アジア太平洋の14カ国・地域を見ると、インドネシアやフィリピン、タイ、インドなどは外国資本による不動産買収は原則不可とされている。シンガポールでは法務大臣の許可なくして外国人(法人)の土地所有はできない。オーストラリアは原則、外国投資審査委員会の許可が必要で、韓国は外国人土地法で事前の許可申請や届け出を求めている。どの国も、国土そのものが外国資本の手に渡ることに法の網をかけているのだ。
今後、外資による森林や農地の買収が進めば、やがて所有者不明となり、税金の未納や水資源の占有、将来的なガバナンス不全へつながりかねない。安全保障の観点から考えると、土地の所有や利用について調査すべき対象区域は、自衛隊基地周辺や国境離島はもちろん、「国土保全」と「食料安保」の観点から、森林や農地等についても「準注視区域」と位置づけ、一定の制限を加える必要があるのではなかろうか。