中国の宇宙開発は1992年に設定された「963計画」と呼ばれる長期計画に基づいて、アメリカに追いつき、肩を並べる宇宙強国になることを目指している。その一つの到達点となるのが宇宙ステーションの建設であり、その最初のパーツとなる核心モジュールを4月29日に打ち上げた。
そのモジュールを打ち上げるための巨大ロケットである長征5号Bのコアが制御されないまま大気圏に再突入することとなり、燃え残った部品が人口密集地に落ちるのではないかと世界中が大騒ぎとなった。結果としてインド洋に落ちて事なきを得たが、制御せずに宇宙物体を落下させることは大変危険な行為であることは全世界に認知された。
こうした問題が起きるのは、中国が国際規範を無視し、自らの計画を推し進めることにしか関心がないというところにある。
昨年も落下部品が民家に
ロケットや衛星などの宇宙物体が大気圏に再突入する時は陸地に落ちないよう制御して落下させることは、2018年に中国も合意した「宇宙活動に関する長期持続可能性ガイドライン」によって定められている。
このガイドラインは法的拘束力があるわけではないが、国際的な規範として成立している。しかし、中国は「特殊な加工をしているので大気圏で燃え尽きる」と主張し、ロケットによる地上の被害が起きるリスクはないと言っていた。
しかし、この長征5号Bは2020年にも打ち上げられており、そのコアが大西洋上で再突入してコートジボワールに部品が落下し、民家が損害を被るといったことが実際起こっている。当時は被害が大きくなかったため、コートジボワールも「宇宙損害賠償責任条約」に基づいて中国を相手に損害賠償を請求することはしなかった。ゆえに、中国は今回の長征5号Bについても、特殊な加工をしたとは思えず、またそうした記録も公開していない。
宇宙空間は地上とは異なり、国境もなければ、地上の権力が容易に及ばない空間である。宇宙開発を行う国は自由にロケットを打ち上げ、衛星を軌道に投入することができる。しかし、宇宙空間はすでに多数の衛星や宇宙デブリと呼ばれるゴミが軌道上を周回している。これらは放っておけば互いに衝突し、さらなるデブリを生み出す恐れがあるため、宇宙開発国は長期持続可能性ガイドラインのような規範に従って行動し、秩序を維持する必要がある。
国際社会こぞって圧力を
にもかかわらず、中国は自国の利益や戦略的目標を達成するために、宇宙空間の秩序を維持することに関心を払わず、「ロケットは燃え尽きるだろう」という運任せの楽観に基づいて行動している。これは2007年に衛星破壊実験を行い、多数のデブリを生み出した行為にもみられる、中国の身勝手さと秩序意識の低さと言える。
ただ、留意すべきは、2007年の衛星破壊実験で多数のデブリを生み出し、国際的な非難を受けてから、中国は同様の実験を控えている。つまり、中国に対する国際的な圧力や批判に対して、中国はそれなりに敏感であり、さらに批判されることを避けようとする傾向がある。今回の長征5号Bの落下に関しても、世界的な非難が起きたことで、今後の打ち上げの仕方を改める可能性はある。
ブリンケン国務長官もいうように、中国はルールに基づく秩序に対して挑戦している。しかし、宇宙に関しては、そのルールを逸脱した場合、国際的に非難することで中国の行動を変えることができる。ルールに基づく秩序を安定させるためにも、中国の逸脱行為を認めず、それを批判し続けることで、中国の行動を変容させていく必要がある。