東京五輪・パラリンピックの中止は野党共闘の「象徴」のようになっている。五輪中止を主張してきた共産党に立憲民主党も賛同し、国民民主党も延期を言い出したからだ。アスリートが日頃の練習の成果を競う場である五輪の開催の是非が政争の具になるのは望ましくない。野党の攻勢を許している責任は政府・与党、そして東京都にもある。
菅義偉首相の動静を伝える産経新聞の「菅日誌」をみると、首相が東京都の小池百合子知事と会談したのは昨年9月の就任以来4回(うち1回は二階俊博幹事長とともに都内のホテルで会食)。最後が昨年12月1日で今年に入って一回も直接は会っていない。
コロナ禍ということもあるかもしれないが、小池氏は二階幹事長のもとをしばしば訪れ会談している。その二階氏は4月に五輪中止に言及し、憶測を呼んだ。
首相は1月のテレビ朝日番組で小池氏とは「いろんなことを言われていますけど、よく電話はしています」と述べたが、政府・自民党と東京都が一丸になって五輪開催に向かって進んでいるという印象は受けない。
菅首相と小池氏は過去に自民党総裁選などで確執があったかもしれないが、2人は昨年3月、東京五輪の1年延期を決めた安倍晋三前首相と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長との電話会談に同席した。いわば五輪開催に向け「同じ船」に乗っているのであり、力を合わせているところを内外に示していくべきだろう。
誤解与えるメディアの報道
小池氏と違って菅首相と近いとして知られる楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は米CNNテレビ系のインタビューで、東京五輪の開催を「正直に言って自殺行為のようだ」と批判した。菅首相は5月2日に三木谷氏と会ったばかりである。もともと五輪反対の三木谷氏に約40分間も何を話していたのかと疑問に思わざるを得ない。
菅首相の宣伝下手とは対照的に、最近目立つのが共産党とそのシンパの動き。
NHKは日本弁護士連合会元会長の宇都宮健児氏が、五輪中止を求めるオンライン上の署名活動を行い、35万人を超える署名が集まったと伝えたが、昨年の都知事選に出馬した宇都宮氏が五輪中止を公約に掲げ、共産党から支援を受けていたことには一切触れなかった。
朝日新聞などは勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」が五輪の中止を内閣府や厚生労働省に求めたことを報じたが、この団体が診療報酬問題などで共産党と連携してきたことには言及していない。
病院の窓に「医療は限界 五輪やめて!」の張り紙を出し、新聞やテレビ、インターネット上で話題となった東京・立川相互病院は共産党系医療団体「民医連」に加盟しているが、共産党の機関紙しんぶん赤旗を除きそのことは報じられていない。
いずれも五輪反対を掲げる共産党の主張に呼応した動きであり、共産党やそのシンパが五輪反対を主導していることをメディアが報じないのは視聴者、読者に誤解を与える。
言葉だけでは説得力もたぬ
東京五輪・パラリンピック組織委員会前会長の森喜朗元首相は月刊正論5月号で作家の佐藤優氏と対談した際、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会の場で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言したことで会長辞任に追い込まれた問題について、「一連の騒動の背景には共産党がいて、戦術として僕の辞任に焦点を当てていたでしょうね」と述べている。
佐藤氏も「森さんを会長から引きずりおろし、そしてあわよくば五輪を中止しようという世論を作り上げ、菅義偉政権、そして自公政権を打倒するという絵を描きながらうまく森さんのことをはめていったな、という印象を持っています」と応じた。7月4日には都議選、そして10月21日の衆院議員の任期満了までには総選挙がある。
菅首相も手をこまねいているだけではこのままズルズルと悪循環に陥る。首相は記者会見などで「安心安全な大会」と繰り返しているが、それでは説得力はない。コロナ禍の中でも東京五輪・パラリンピックを開催することがいかに重要かを国民に説き、医療体制が逼迫しないよう、海外からの選手団には医療従事者の同行を求めるなどあらゆる手立てを講じ、国民の理解を得て、成功に導くよう全力を尽くすべきだ。