4月の日米首脳会談後の共同声明で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」ことが盛り込まれた。そのことについて、日本が米中間の武力紛争に巻き込まれるかのような論調が出回っているが、台湾問題は決して他人事ではなく日本の安全保障そのものである。
「明日の台湾」は「明後日の沖縄」
「他人事ではない」理由の第一は、マラッカ海峡から日本に至る大切な海上交通路近傍に台湾は位置しているからである。日清戦争後、日本が先ず台湾割譲を企図した理由もそこにあった。
第二に「今日の香港は明日の台湾」である。中国の力によるによる現状変更を野放しにしておけば、その先は「明後日の沖縄」となるからである。
その前哨戦としての布石は着々と打たれている。例えば2012年9月17日付の中国共産党系メディア「環球網」は「2006年3月4日に沖縄で住民投票が行われ、75%が(日本からの)独立を要求した」と事実無根のフェイクニュースを流し、2013年5月8日付の中国共産党機関紙「人民日報」は「沖縄の主権は未確定」と主張した。「環球網」はまた2016年8月12日付では「沖縄でなく琉球と呼称すべき」と日本からの独立すら呼びかける記事を掲載している。
第三に中国人民解放軍の海空軍が太平洋に進出する際、台湾は日本の南西諸島からフィリピンに至る第一列島線上の重要な地理的位置にあり、ここを中国に取られれば人民解放軍は自由に太平洋に進出できて日本の南方正面に展開できるからである。
緒戦で狙われる日本の基地
米ランド研究所は2015年に米中間で武力衝突が生起した場合について分析した報告書を出版した。概要は、戦場を台湾海峡と南沙群島の二つのケースに分け、空戦、海戦、宇宙・サイバー・核といった10項目について米中の優位を年代順に分析したもので、最新の2017年時点では、台湾海峡で米中拮抗、南沙では米側やや有利という結論となっている。
戦力投射力は距離のファクターであり、注目すべきは台湾海峡紛争の場合、中国には戦場に無補給で直接投射できる空軍基地が39あるのに対し、米軍はわずか2カ所、沖縄の嘉手納と普天間しかない事である。
したがって人民解放軍としては、緒戦においてこの2カ所の機能不全を企図することは間違いないだろう。それを示すかのように、中国西部の砂漠地帯に嘉手納と、洋上基地となる米空母の母港、横須賀と同寸大の模型目標を作り、ミサイルによる攻撃シミュレーションを既に行なっているのだ。
中国が台湾を攻撃する場合、当然台湾周辺に外国航空機船舶の侵入禁止区域を設定するであろう。好例は1982年に生起したフォークランド紛争で、この時英国は同島周辺に200カイリの海上排除海域(Maritime Exclusion Zone: MEZ)を設定して当該海域にアルゼンチンの海空軍が侵入したら攻撃すると宣言した。
台湾から200マイルといえば尖閣諸島は勿論のこと石垣・宮古島までが入り、日本の主権が侵害されることになる。これらの島々から住民保護の任務に就くのは自衛隊の艦艇・航空機であり、それらが近付けなければ住民の救出は出来ない。すなわち台湾有事は日本有事なのだ。