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2021.06.30 (水) 印刷する

人口減少問題で地方と都市は一蓮托生 工藤豪(国基研企画委員・日本大学文理学部非常勤講師)

 総務省が発表した2020年国勢調査の速報値によると、2020年10月1日時点での日本の人口は1億2622万6568人であった。前回の調査(2015年)から86万8177人減少し、都道府県別にみると9都府県で増加、38道府県で減少する結果となった。人口が増加した地域は東京をはじめとする大都市圏に集中しているのに対し、東北、山陰、四国、九州などで人口が減少し、とくに秋田、青森、岩手の北東北で人口減少が顕著である。

地方は結婚支援に知恵絞れ

人口減少は、転出・転入の結果である社会増減と、出生・死亡の自然増減によって生じるものであり、地方における人口減少は、若年層の転出と出生数の減少による影響が大きいと考えられる。

この若年層の転出は、子どもを産み育てる世代の流出ということになり、出生数の減少につながることは言うまでもない。また、出生数の減少は、有配偶率の低下(未婚化)と有配偶出生率の低下(夫婦出生力の低下)によってもたらされる現象である。

若年層の流出、有配偶率の低下、有配偶出生率の低下の各要因が、それぞれどの程度影響しているのかは、地域(自治体)によって異なる。人口減少に陥っている自治体は、まずもって自分たちの地域で人口減少が生じているメカニズムについて適切に把握するとともに、その適切な認識に基づく取り組みを実践することが必要であろう。

多くの自治体では、1990年代から少子化対策として子育て支援の拡充を図っているが、出生数の減少に歯止めをかけることのできないでいるところが多い。そのような中で、近年、地方創生の取り組みを契機として、若者の移住・定住を促進するような施策を展開する自治体が増えている。

一方、未婚化対策として結婚支援を行う自治体は増加傾向にあるものの、結婚という個人の自由な選択に介入するという側面を考慮して、その取り組みが忌避される場合も少なくない。しかし、婚外子の少ない日本では約98%は婚内子として生まれているのであり、結婚支援を抜きにして出生数の減少を是正することは難しいのが現実である。

だが、若者が仕事を見つけて地元へとどまり、あるいはUターンし、そこで異性と出会い、結婚して家族を形成し、家族で支え合いながら子どもを産み育て、そして生まれ育った若者が再び地元で生きていこうとする、その循環が起きなければ出生数の減少や人口減少を止めることはできない。そのために、地域として何をすべきなのか、もう一度考える必要があるのではなかろうか。

都市部の課題は医療・介護

人口増加が続く都市部も課題を抱えている。それは医療・介護の供給不足という問題である。今後、高度経済成長期に地方から流入した団塊の世代が後期高齢者となり、首都圏において医療・介護の需要が高まるのに対し、埼玉・千葉・神奈川における人口10万人当たりの病床数は全国の中で最も低い水準にある。また、東京では単身世帯が多く、公的な支援を必要とする高齢者の増加が予想されるが、そうした支援のための人材を地方に求めると、東京への一極集中がさらに促進されてしまうことになろう。

地方における人口減少は、都市にとっても深刻な影響を与える要因となる。東京における合計特殊出生率は全国最低の値だが、東京の人口基盤は地方を中心とした他県からの若年層流入によって支えられてきた。

人口という側面において、いわば地方と都市は一蓮托生なのであり、地方における人口減少に対し、国全体として積極的な支援を行うことは、都市にとっても必要不可欠であることを忘れてはならない。