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2021.07.20 (火) 印刷する

「例外なき」国際課税ルールの実現を 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 イタリア・ベネチアで開かれていた主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は7月10日(日本時間11日未明)、新たな国際課税ルールで「歴史的な合意を成し遂げた」とする共同声明を採択した。

新ルールは、法人税の引き下げ競争に歯止めをかける15%以上の最低税率導入と、多国籍企業の税逃れを防ぐデジタル課税導入が柱になっている。新ルールは、経済協力開発機構(OECD)が7月1日に大枠合意した内容をベースにしている。

ただ、「合意」と言っても、依然、残された課題は多く、10月の最終合意に向けては予断を許さない状況にある。一部の国の例外を許さず、「歴史的」の名に相応しいルールの実現には、日本も身を切る覚悟が求められる。

富の偏在加速する現制度の問題

現在の国際法人課税制度は、約100年も前に、主に製造業を念頭に置いて導入されたもので、その国に企業の工場や本社・支店といった事業拠点がなければ、課税できない仕組みとなっている。

したがって、近年の多国籍企業やインターネットを通じて世界各国で事業を展開するGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)といった米巨大IT企業などは、タックスヘイブン(低課税地域)に形式的に拠点を置くことで節税をする一方、どんなに利益を得ていても、拠点がない国では課税されないという〝恩恵〟を受けてきた。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大でサービス業を中心に多くの企業が打撃を受ける一方、巣篭り消費などの恩恵から巨大IT企業の収益はさらに拡大したことで、課税強化に向けた機運が高まってきた。米国が国際協調を重視するバイデン政権に代わったことも協議の潮目が変わった理由と言われる。

改革の柱は次の2つである。一つは、IT企業を含む巨大多国籍企業に関して、各国間でより公平な利益と課税権の配分を確保すること。次に、法人税引き下げ競争に歯止めをかけるため、各国が自らの租税基盤を維持できるような世界共通の最低法人税率を導入することである。

一つ目の柱の下では、売上高200億ユーロ(約2.6兆円)、利益率10%を超える超過利益については、その20〜30%を市場国に課税権として与える。毎年1000億米ドルを超える収益に対する課税権については、市場がある国に再配分される。また、二つ目の柱で提示されている最低15%という世界共通の最低法人税率は、毎年約1500億米ドルの追加の税収を生むと推定されている。

今回の合意実現は、痛み分けの勝利と言える。巨大IT企業への課税強化ではマイナスとなる米国とプラスとなるその他の国があり、最低法人税率の導入ではプラスとなる先進国とマイナスとなる低課税国・地域があるが、今回の合意は、双方の利害調整を同時に図ることが可能になったということだ。

中国を適用除外にしていいのか

「歴史的合意」とはいえ、15%を下回って法人税を低くしているアイルランドやハンガリーなど7カ国(7月12日現在)は、受け入れに依然慎重な態度をとっており、今回の声明には参加していない。1カ国でも参加しない場合、合意は意味を失いかねない。

今回の合意では、依然議論が収束していないだけでなく、制度の根幹にもかかわらず、取り上げられていない問題もある。各国が既に導入しているデジタルサービス税(DST)の廃止時期も定まっていない。超過利潤の配分割合(20~30%)についても、なお曲折がありそうだ。

特に重要なのは、アイルランドが態度保留の理由とした中国などへの適用除外の問題である。新ルールでは、中国や発展途上国が外国企業誘致のために導入している優遇税制に配慮し、軽減措置を盛り込んだ。中国などの意見を反映して、工場など実体がある投資への税軽減策については、最低法人税率の適用が除外されるとの指摘もある。各国が提供する研究開発(R&D)への税制優遇措置などが適用除外となれば、企業は課税強化を免れ、節税が可能になる。今後は、わが国も含めて、各国の税制見直しなども必要である。

不公平な税制や、時代に合わない課税制度は、富の偏在を加速させ、格差を拡大する。名実ともに「歴史的な合意」とするためにも、今後一段と本格化する交渉では、身を切る覚悟と共に、日本のリーダーシップも問われる。