公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.07.20 (火) 印刷する

新エネルギー基本計画を危惧する 奈良林 直(東京工業大学特任教授)

 政府が見直しを進めている国の新たな「第6次エネルギー基本計画」原案概要が明らかになった。報道によると、その骨子は ①2030年度の総発電量に占める太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を、現計画の22~24%から36~38%に高める ②原子力については20~22%を維持し、「安全性の確保を大前提に、重要なベースロード(基幹)電源」と位置づけているが、新増設や建て替えについては明記せず、「可能な限り依存度を低減する」―というものだ。

政府は7月21日に原案を公表し、意見公募を経て、今年秋をめどに新計画を閣議決定するとのことであるが、11月には英国で「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」(COP26)が開催されるので、それを意識した日程になっているようだ。極論すれば、小泉進次郎環境大臣の世界に向けたPRのために策定された計画になっていることを指摘したい。

風力発電を基幹とする無謀

原案では、2030年度の総発電量を18年に公表した現計画から約1割減の9340億キロワット時程度と推定している。工場やオフィスビルなどで省エネが進むとの見通しからだが、今後急速に普及するとされる電気自動車や産業界の熱源の電化が考慮されていないのではないか。

こうした前提のもとに 再生エネは「主力電源として最大限の導入を促す」と明記され、約3310億キロワット時(総発電量の35%)~約3500億キロワット時(同37%)の導入目標が掲げられている。1%の差は、水素やアンモニアを火力発電所に用いるものと考えられる。特に洋上風力については、大量導入が可能で、関連企業の裾野も広いとし、再生エネの主力電源化に向けた切り札と位置づけている。

現在、我が国では、水力が7.7%、バイオマスが2.8%、地熱が0.2%で、太陽光は8.6%、風力は0.8%しかない。そこで、太陽光と風力を除く再エネ比率を現状と同じ11%程度と仮定すると、2030年度には太陽光と風力だけで少なくとも24%の電源を確保する必要がある。

小泉進次郎環境大臣は太陽光の設備容量を20ギガワット(100万キロワットの原発20基分)増やすとしているが、現在の62ギガワットの太陽光で8%の電力シェアなので太陽光は11%にしかならず、太陽光を上回る13%に到達するまで風力発電の大幅導入が必要である。現在の風力シェア(0.8%)からどうやってそこまで増やせるというのだろう。福島県の沖合に設置された5000キロワットの大型風車は、採算が採れないとして、21年度に解体撤去することが決まっている。

「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクト(案)が2021年6月に資源エネルギー庁から公開されたが、プロジェクトの研究開発の成否も見極めないで、新エネルギー基本計画で見切り発車している。国家の基本となるエネルギー政策を実績も無しに推進するのは、余りにも無謀・拙速ではないか。

「再エネは原発より安い」のウソ

経済産業省の有識者会議が7月12日、2030年時点での発電コストは太陽光が原子力発電よりも割安になるとする試算を公表した。それによると事業用太陽光は1キロワット時当たり8円台前半~11円台後半だったのに対し、原発は11円台後半以上とされた。

しかし、これに対しては「太陽光発電は天候による発電量の変動が大きく、実際にはバックアップのために火力発電を確保する必要があり、その費用は計算に含まれていない」(細田博之・自民党衆議院議員)などといった厳しい指摘が出ている。

筆者も同じような疑問を抱いている。太陽光や風力の変動を吸収するには、大容量の蓄電池などが必要で、変動する再エネのピーク時出力に応じた送電網も欠かせない。ソーラーパネルの量産には膨大なレアメタルも必要だ。太陽光や風力の引き起こす公害対策も避けがたい問題だ。

我が国で風力発電を大規模に導入する場合、技術的にも大きな課題がある。1つは強い風が吹く地域が北海道や東北地方の洋上に限られていることだ。英国など欧州に比べて半分程度しかない。沖合に浮体式の設備を置く洋上風力発電の考えもあるが、風車から陸地までの安定した送電ケーブルの敷設など技術的な目処も立っていない。

ケーブル自体に浮力を持たせたダイナミックケーブルなどの案もあるが、強い海流に晒され、漁船の操業にも影響する。さらに、日本の南北を貫く基幹送電線の増設が必要になる。長距離の送電には直流送電が不可欠だが、これらの技術的実績についても、試算では必要なコスト計算が行われていない。