公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.08.16 (月) 印刷する

実戦経験なき中国潜水艦の練度 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 8日の英紙デイリーエクスプレスは、英空母「クイーン・エリザベス」を追尾していた中国の商級原子力潜水艦2隻が同空母打撃群によって探知されたと報じた。同紙は、英海軍関係者の話として「中国の潜水艦能力は急速に成長していて過小評価できないが、米英が冷戦時代に経験した戦闘経験がない」と紹介している。確かに中国には1979年の中越戦争があるが、陸戦であり海戦の実戦経験はない。

隠密性が命の潜水艦

潜水艦は見つかったらお仕舞いである。発見されることは命を絶たれることと同義語である。今回、探知されたのは最新の商級原子力潜水艦であった。

筆者が海上自衛隊の第一護衛隊司令であった1994年、米空母「キティーホーク」に乗り込んで日米共同演習を行ったことがある。当時の「キティーホーク」空母打撃群の司令は、のちに太平洋軍司令官となるデニス・ブレアー海軍少将(当時)であった。筆者が乗り込む直前に、同空母打撃群は東シナ海で漢級原子力潜水艦が追尾していることを探知し、艦上対潜哨戒機のS-3が押さえ込み、浅海面まで浮上した同潜水艦の写真まで撮影していた。

筆者が情報本部長であった2004年11月に、やはり漢級原子力潜水艦が我が国の領海である宮古島と石垣島の間を通り抜けようとしたが、海上自衛隊に探知され、対潜哨戒機から発音弾を何発も投下されている。

2006年に沖縄東方海域を航行中の「キティーホーク」に中国海軍の宋級在来型潜水艦が魚雷発射可能距離である5マイル以内まで探知されずに近接して浮上するということがあったが、当時海軍関係者の間では潜水艦が自分の位置を暴露するようなことを敢えてやるのか、といった議論がなされたことを思い出す。

潜水艦は隻数より戦闘経験

潜水艦探知に最も適しているビークルは航空機か、水上艦艇か、潜水艦か?答えは潜水艦である。理由は同じ環境下にあるからである。今回の報道では対潜護衛艦「ケント」と「リッチモンド」の状況室で2隻の商級潜水艦を探知した、としているが筆者の護衛艦艦長や護衛隊司令の経験からして水上艦艇のソーナー(水中音波探知機)で探知したとすれば英海軍水上艦艇の潜水艦探知能力は頗る高いと敬服する。

「クイーン・エリザベス」には原子力潜水艦「アートフル」も随伴しており、同潜水艦は12日、韓国の釜山に入港している。この「アートフル」がまず商級原子力潜水艦を探知し、その情報を対潜護衛艦に通報したというのが実態ではなかろうか。

1982年のフォークランド紛争で英原子力潜水艦「コンカラー」はアルゼンチンの巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」を撃沈した戦闘経験がある。戦力は単なる潜水艦の隻数ではなく戦闘経験という要素が大きい。