公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.08.30 (月) 印刷する

アフガンの邦人等救出の不手際 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

アフガニスタンに邦人等(日本政府に協力した現地人スタッフや家族を含む)の救出に向かった4機の自衛隊機は、現時点で1名の邦人と十数人のアフガン人しか救出できていない。31日には米軍が撤収する。テロの危険性が高まる中、これ以上の救出は無理だろう。日本とほぼ同時期の24日に現地入りした韓国空軍機は、韓国に対する協力者をも含め約390名を27日までに仁川空港へと運び出している。輸送日数と時差を考慮すれば2日間で救出したことになる。この差は何によって生じたのか。

協力者救出失敗は国の信用失墜に

17日、英軍機によってドバイに脱出した在アフガン日本大使館員はトルコのイスタンブールに臨時事務所を設置した模様であるが、一体何をやっていたのだろうか。在アフガン韓国大使館員も、カブールがタリバンの手に落ちた15日に一度カタールに退避したが、約1週間後に4人が再びカブールに戻り、脱出のためのバスを各国が激しく争奪する戦いの中で、米軍と取引があるバス会社から6台のバスを確保し、自国民とアフガン人の地元協力者を救出したと報じられている。常日頃、人脈を培っておかないと、いざという時に機能しない。

「この国に協力しても見捨てられる」と思われれば、国際社会で極めて大きな信用を日本は失うことになる。

報道によれば、26日に日本も約10台のバスを確保して出国希望者を空港に向かわせたが、米軍人13名を含む100名以上が死亡する自爆テロが空港周辺で発生し、空港への接近を断念したという。前日の25日には米国務省がすでに空港に近づかないよう警告していた。テロ情報があったのであろう。1日早ければ韓国のように救出できていた。

カブールが陥落したのは8月15日の日曜日であり、日本の国家安全保障会議(NSC)が自衛隊輸送機の派遣を決定したのは23日の月曜日であるから1週間以上が経過している。もっと早く決断して自衛隊機を派出していれば異なる展開になっていたかもしれない。何故1週間以上もNSCが開けなかったのか、検証が必要だ。

不可解なバグラム空軍基地の放棄

米軍が首都カブールの北約40kmにあるバグラム空軍基地をアフガン政府軍に明け渡したのは1カ月前の7月であった。

中央情報局(CIA)の根拠地でもあったバグラム空軍基地が機能していれば、米国のみならず同盟国の非戦闘員救出作戦(Non-combatant Evacuation Operations-NEO-)は、比較にならないほど容易にできたはずである。またエアーカバー(上空援護)を持たないタリバンも、これ程早くカブールを制圧できたかどうか疑わしい。

バイデン大統領を軍事的に補佐する国防長官は、かつてアフガンをも管轄する中央軍司令官であったロイド・オースチン元陸軍大将である。バグラム空軍基地を米軍が放棄すれば如何なる事態になるかを最も知る軍人である。にもかかわらず適切に大統領を補佐していない。

なお今回の自衛隊機派遣は、自衛隊法第84条の4「在外邦人等の輸送」に基づいているが、現地の治安状況が航空機や車両の運行を安全に行うことができる状態にあることが前提で、31日に米軍が撤収すれば、安全という根拠がなくなってしまう。

平成27(2015)年の平和安保法制策定時に加えられた自衛隊法84条3の「在外邦人等保護措置」で示された条件も現実的とは言い難い。現地政府の統治機能失墜時におけるNEOとして邦人等の救出ができるような文言にはなっていない。

条件の第1は当該地域の安全を現地の当局が確保して戦闘行為が発生しないこと、第2は武器使用を含む自衛隊の活動について当該国が同意していること、そして第3は当局との連携及び協力の確保が見込まれること―とされている。しかし、今回の場合は全ての要件を満たしていない。発動条件そのものが非現実的であり、将来を見据えて改正の必要がある。

自衛隊は、タイで行われる多国間共同演習「コブラ・ゴールド」などでNEOの訓練は行なってきた。しかし、現自衛隊法の制約を越えてのNEOは実施できない。