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2021.09.07 (火) 印刷する

第6次エネルギー基本計画は見直せ 奈良林 直(東京工業大学特任教授)

菅義偉首相が事実上の退陣を表明した。ならば拙速の念が消えない「第6次エネルギー基本計画」の閣議決定についても、自民党の新たな総裁が選ばれ、その後の総選挙で新政権が発足まで判断を延期すべきと思う。

産業凋落して、地球温暖化あり

「基本計画」は日本として将来の電力調達先をどこに求めるか、事前に明確にしておくという極めて重要な計画である。菅政権が閣議決定を目指してきた「6次計画」では①2030年度の総発電量に占める太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を、現計画の22~24%から36~38%へと大幅に高める②原子力発電については、現状の20~22%を当面は維持するものの、新増設や建て替え(リプレース)については明記せず、「可能な限り依存度を低減する」―となっている。

かつて世界一の座を占めていた我が国の主要産業は、いまや全ての分野で凋落の一途を辿っているように見える。これは過去10年間、主要国のなかで最も割高な産業用電力料金を押し付けられてきたからだ。にもかかわらず日本は、2030年までに地球温暖化ガスの46%削減や、再エネ比率を36%~38%に高めることにしている。

それも、実行可能な数値の積み上げ無しに、官邸サイドからの要請で背伸びをして決めた数値であるから、国の資源エネルギー調査会基本政策分科会などで「辻褄合わせ」「絵に描いた餅」と酷評されたのは無理もない。11月に英国で開催される「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」(COP26)には、我が国の国際公約として実行可能なものに修正すべきである。菅首相が小泉進次郎環境相、河野太郎行革担当相を重用しすぎたことが、非現実的な「基本計画」の菅政権を短命に追い込んだのではないか。

進次郎氏「削減目標46%」のポエム

「地球温暖化ガス削減目標」の「46%」について小泉大臣は「おぼろげながら、浮かんできた」と述べているが、イメージではなく、実行可能なシナリオからベストなものを選定することが必要である。小泉氏が主張する「太陽光」最優先政策が、過去10年間でどのような効果を生んだのか、国民経済にどのような影響を及ぼしたのか、正と負の両面から精査することが必要である。

下図は二酸化炭素(CO2)排出係数の国別世界ランキングである。1kWh(1キロワット時)の電気を得るのに何グラムのCO2を排出したかを算出したものだ。このグラフで一目瞭然なのは、中国、米国、日本、ドイツなどの太陽光発電の先進国とされる国が、CO2の排出係数では、世界的には劣等国であることだ。過去10年以上も熾烈な太陽光導入競争を行ってきた結果、CO2の排出削減には、ほとんど効き目が無かったことが分かる。

一方、ランキング上位は1位がノルウェーで、水力発電がほぼ100%の国である。スイスは水力と原子力が半々で、火力は2%弱。スウェーデンも原子力と水力が中心で、フランスも原子力が74%であとは水力だ。つまり、CO2を効果的に減らすには水力と原発が最も効果的であることを示している。イギリスやデンマーク、ドイツは風力発電にも熱心だが、2030年の目標値には程遠い。この現実をしっかり見据えなくてはならない。小泉大臣の〝ポエム〟では、金メダルも銀メダルも無理なのだ。

環境省の官僚たちに小泉大臣は極めて不評である。「レクした内容は皆忘れてしまう。理詰めの議論ができない」。

図 1kWhの電気を得るのに排出するCO2が何グラムかが排出係数

河野大臣はゴリゴリの反原発派

週刊文春9月9日号で資源エネルギー庁の官僚を恫喝して地球温暖化ガス削減の上乗せを迫る河野大臣の記事が掲載された。河野氏はもともとゴリゴリの反原発派である。日米原子力協定自動延長阻止と六ケ所再処理工場運転開始阻止、これによって使用済み燃料の原発内保管が満杯にして原発運転阻止をめざした2017年2月の国際会議(PuPo 2017)にも参加している。

次いで2017年9月10日から15日の間に日米原子力協定自動延長阻止に向けた訪米団が組織され、「日本のプルトニウム蓄積への国際懸念論を相互にアピールし、その時の米国関係者の発言をそのままNHKが2017年10月30日のクローズアップ現代「“プルトニウム大国”日本~世界で広がる懸念~」として報道した。この訪米活動の事務局を務めたのが反原発派として著名な海渡弁護士事務所の猿田佐世氏の「新外交イニシアティブ」(ND)の活動である。「日本は原爆6000発分のプルトニウムを貯め込んでいて問題だ」とロビー活動を行うことで、米国の有力者を使って大きな声で日本政府に圧力をかける。これを「ワシントン拡声器」と呼び、最後の拡声器がNHKなのである。そして、この大きな拡声器をバックに「日本はプルトニウムを減らす」と国際公約したのが、当時、外務大臣であった河野氏である。

これにより六ケ所村に建設された再処理施設の運転には重い足かせが付けられた。しかし冷静に考えれば、我が国の軽水炉由来のプルトニウムを核兵器にしている核保有国は存在しない。とんだ言いがかりである。原発を使わなくては2050年のカーボンニュートラルは達成できない。河野氏はポスト菅の有力候補の一人というが、恫喝大臣が総理大臣になったら、それこそ、誰も制止できない独裁亡国政権が誕生してしまう。