この数年間、日本海の漁業者は苦難の連続である。日本海の中心部にある好漁場・大和堆では、2015年以来、北朝鮮が「漁業戦闘」と銘打ち日本海中央部への強硬出漁を行ってきた。2019年、水産庁は、日本の海域に侵入した4007隻を超える北朝鮮船に対し退去を勧告している。しかし、2020年には、北朝鮮船は大和堆にほとんど姿を現さず、代わって中国の大漁船団が姿を見せている。
北朝鮮漁船に代わって一網打尽に
北朝鮮の漁船団が姿を現さなくなった理由は、金正恩総書記がコロナ対策として出漁禁止を指示したという説がある。また、中国漁船団に漁業権を売ったためだと噂されているが確証は無い。中国に漁業権を売っていた証拠が残るのは、2016年にまでさかのぼる。16年には北朝鮮が中国に売った漁業権は、約130億円相当と推測されている。以後は、北朝鮮との漁業権の売買も国連制裁の対象になった事から、中国は表立って契約をしていない。経済制裁の効果により、出漁したくても燃料油が枯渇しているために出漁できないのが現実であろう。
漁業権の売買が無くても中国船は大和堆に進出している。2020年に水産庁が退去を勧告した中国漁船は、延べ4393隻。前年の約4倍にも膨れ上がっている。中国漁船団は、北朝鮮漁船の10倍以上大きい1000トン型の鋼鉄船が主軸である。日本漁船にとっては、北朝鮮漁船団をはるかに上回る脅威である。
中国漁船団は、日本海の大和堆海域に進出し密漁を繰り返している。かぶせ網漁という高性能の集魚灯でイカをおびき寄せ、一網打尽にする。水産資源の保全など、まったく考えていない。中国は、6月に南西大西洋と東太平洋の一部の公海での自主休漁を指示し、この海域でのイカ漁が実質的に禁止となった。中国当局は、国際的なイカ資源の保護・回復に貢献するためとしているが、日本海では、乱獲がさらに増長され、日本海中のイカを獲り尽す勢いだ。
日本船規制する水産庁の本末転倒
中国の掲げている漁業政策と日本海における行動は相反している。このことからも中国にとって日本海への進出は、漁業以上の意図があることがわかる。警備の手薄な日本海は、中国にとって日本の海洋安全保障体制を揺さぶるためにも効果的な海域である。さらに、北極海航路も見据え、影響力を強めたい海域でもあるのだ。
海上保安庁の手の廻らない日本海の漁業警備を委ねられた水産庁は、イカの漁期である6月12日から2か月間の間に操業の自粛と解除を29回も繰り返した。イカ釣り漁船は、出漁するとすぐに帰還するように指示が出てしまう。これでは、水揚げが期待できず出漁を見合わせる漁船が多い。また、昨年は9月30日から1カ月間の自粛を要請していた。2年続けての出漁自粛に廃業に追い込まれる漁業者も出ている。中国漁船団の不法操業を制止できず、反対に日本の漁船を規制するなど、国家の主権を放棄したのも同然である。中国への外交上の過度の配慮により、能登の漁民は漁場を奪われ、昨年は2隻が廃業に追い込まれている。
国家は、中国の脅威を認識し、日本の国民を守る行動に出なければ、尖閣諸島をはじめとした国境の島々を失うことになりかねないのだ。