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2021.09.21 (火) 印刷する

クアッド首脳会談に向けたインドの期待 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)

日米豪印4カ国によるQuad(クアッド)首脳が直接対面する会談が9月24日、ワシントンのホワイトハウスで開かれる。強硬路線を進める中国を念頭に置きつつ、自由で開かれたインド太平洋戦略を進めていくことを目的とするクアッドの中で、その中国を最も脅威と見ているのはインドである。

依然続く中国との国境問題

インドは昨年春、北部ラダック地方で中国軍の侵略を受け、6月には兵士20人の死者を出した。厳しい冬を越えた現在も両軍は対峙しており目立った改善が見られない。パンゴン湖では両軍の後退が行われたものの、それより重要なガルワン渓で進展がなく、昨年4月時点の国境に戻すことを主張しているインドに対し、中国が合意する様子は全く見られない。

自国の製造業が脆弱なインドは中国からの輸入に依存してきたが、中国依存からの脱却も急務である。すでに華為技術(ファーウェイ)などの中国企業を排除している高速通信規格「5G」の分野でも、インドが中国からの輸入にまだ頼っている半導体の分野でも、クアッドの枠組みによる日米豪諸国との供給網強化をインドは望んでいる。

タリバン政権樹立は悪夢

インドにとってのもう一つの問題はアフガニスタンである。これまでは、米国の傀儡政権と共にインドが西側からパキスタンを牽制していた。しかし今回の政権崩壊で、アフガニスタンにインドの敵国、中国とパキスタン、さらにはロシアとイランが集結することになった。

インドは20年間にアフガニスタンに対して30億ドルもの援助を供与してきたが、それが無駄となった。中央アジアの天然資源をパキスタンを通らずにアフガニスタンを南下してイランのチャバハール港から輸入するというインド版「一帯一路」計画も頓挫した。

さらに懸念されるのは、イスラム過激派のテロ活性化である。カシミール問題はパレスチナ問題と同じようにイスラム教徒にとって大きな意味を持つ。カシミール問題でアフガニスタンやパキスタンのテロリストが入り込んでくることは、インドにとって悪夢である。

しかし、アフガニスタンとパキスタンのテログループは活気づいている。アメリカがアフガニスタンに残していった武器の一部はパキスタンにも流れている。アフガニスタンの親米政権が勾留していたテロリストもタリバン政権によって解放され、テロリスト集団は戦力アップしている。

警戒と依存が共存する対米関係

インドでは「アメリカは都合がいい時だけ『パートナー』としてやってくる国で、常に『友人』である日本とは違う」と考える向きがこれまでも多かった。今回のアフガニスタンからの一方的な撤退はインドにとってのアメリカの信頼をさらに低下させた。

加えて、アメリカがアフガニスタンとウズベキスタンとパキスタンと一緒になってもう一つの「クアッド」を発足させたことは、インドの神経を逆なでした。米英豪が新たに発足させたAUKUSに関しても、本来は日米豪印のクアッドを補完するものであるにもかかわらず、インドでは自分たちもフランスと同じような目に遭うのではないかというトーンで報道されている。

しかし、中国との領土問題が一向に改善しないインドにとって、アメリカは絶対に必要なパートナーだ。対アフガン戦略や対中戦略を再確認するためにも、今回のクアッド首脳会談はインドにとって極めて重要なものである。