公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.10.04 (月) 印刷する

中国の深刻な電力危機 奈良林直(東京工業大学特任教授)

CNNや米誌ニューズウイーク、NHKなどのほか、中国紙までが、中国各地の深刻な電力危機と工場への操業に影響が出ていることを報じている。猛暑とエネルギー価格の高騰が原因で、石炭火力発電でもこの危機が長期化する見通しだ。このような電力危機や停電は、我が国でも1月に発生した他、米国のカリフォルニア、テキサス両州のほか、オーストラリア、フランスでも多発している。

再エネ優先策も一因か

報道によると、9月27日には黒龍江省、吉林省、遼寧省の北東部3省が「予想外かつ前例のない」電力制限に見舞われた。翌28日には3省で電力供給が割当制となり、市民生活や企業の操業に深刻な混乱が生じている。

当然、日系企業にも影響が出て、広東省のある精密機器メーカーの工場では週に6日間、夜間以外の電力使用量が通常の半分に制限され、一部の操業は夜間に振り替えられた。また、別の電子機器メーカーでは、週に5日間、電力使用量が通常の10%に制限され、自家発電で対応している状況だという。iPhone向けの半導体を供給している台湾企業の中国工場も操業に支障が出ている。

電力不足の原因には複数の要因がある。まず、習近平政権が石炭火力発電所に上限を設けて発電を抑制している。各都市は、忠誠を示す必要から発電を自ら抑制している。これに無風と猛暑、水不足が加わり、風力発電所と水力発電所の出力が落ちた。広東省では、省内の電力供給に大きな割合を占める水力発電が水不足にたたられた。

遼寧省(省都・瀋陽)では当局が9月26日、今年初めから8月までに電力需要が記録的に増加したと発表。これに風力発電などの発電量の低下が追い打ちをかけ、電力不足を招いたという。隣接する吉林省でも石炭不足が原因で停電が頻発しており、省のトップが石炭の緊急調達のため内モンゴル自治区の炭鉱に交渉に行った。石炭などの価格が国際的に高騰しているため電力会社が発電所の稼働率を落としている。

新政権は原発政策転換を

先の自民党総裁選で惨敗した河野太郎前行革担当大臣(現党広報本部長)は、2030年までの地球温暖化ガスの排出削減目標を「38%以上に」と強く求めていたが、風力・太陽光・水力などは気象の影響を強く受ける。世界的には変動する再エネ比率が20%を超えると、猛暑、長雨、大雪、寒波、などを起因とした電力危機や大停電などが多発している。

この10年余り、我が国も含めて脱原発・再エネ最優先の政策が取られてきたが、太陽光や風力発電を増やして、効果的な二酸化炭素(CO2)削減に成功した先進国はない。

ドイツ連邦議会(下院)選挙(9月26日投開票)を前にスウェーデンの環境活動家グレタさんらによる環境運動「未来のための金曜日」などが24日、ドイツ各地で気候変動対策を訴えるデモを開いた。グレタさんもベルリンでデモに参加し、「ドイツは気候変動の最大の悪者の一人だ。気候変動阻止のために十分な提案をしている政党は皆無だ」と批判した。

1751年以降の累積のCO2排出量で、ドイツは米中ロシアに次ぐ4番目とされる。我が国も、反原発の河野太郎、小泉進次郎両氏が閣外に去ったことから、エネルギー基本計画に「原子力の新増設・リプレース」「原子力を最大限活用してカーボンニュートラルを目指す」と明記すべきだ。

岸田新首相には、「再エネ原理主義では二酸化炭素を効果的に減らすことはできず、我が国経済発展にとって有効な投資にならない」ことを認識してほしい。我が国はグレタさんのスウェーデンやフランスの原子力優先政策を範とすべきなのだ。

図1 1kWhの電気を得るのに排出するCO2が何グラムかが排出係数

図2 ドイツのエネルギー政策の失敗