公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.10.04 (月) 印刷する

3歳児熱湯虐待死事件はなぜ防げなかった 上野晃(弁護士)

またか。この報道を目にした時の私の最初の感想だ。大阪府摂津市で起きた3歳児熱湯殺人事件。犯人はシングルマザーの交際相手だった。こうしたシングルマザーの連れ子に対する交際相手による虐待死事件が多発している。3年前の2018年、東京目黒で起きた5歳女児虐待死事件もメディアに大きく取り扱われたが、その後もこうした事件は頻発しており、もはや感覚が麻痺してしまいそうなくらいだ。

警察、児相を責めても解決せず

こうした事件が起きるたび、メディアは「防ぐことはできなかったのか」と検証を始める。そして必ず「警察はもっと早く動けなかったのか」とか「児相は何をしていたんだ」といった行政批判が展開される。それはそれで必要なことかもしれない。だが、私たちはより素朴で極めて重要な疑問を忘れている。私のクライアントのイタリア人男性が、そのことに気づかせてくれた。

彼は妻に子供たちを連れ去られたまま、もう5年近くも子供たちと会えていない。「夫婦の別れが親子の別れ」になる、日本の悪習の被害者だ。摂津市の事件に話題が及んだ時、彼は私にこう言った。

「実の父親はどうしてたんですかね。きっと会えてないんでしょうね。会えてたら、この子、お父さんに助けてもらえたかもしれないのに」

単独親権制度に問題はないか

日本は先進諸国では唯一と言って良い単独親権制度を採用する国だ。この単独親権制度が、「夫婦の別れが親子の別れ」という日本の悪習に拍車をかけているとの指摘もある。そしてイタリア人の父親は、この悪習がなければ、つまり実の父親が児童と定期的に会えていれば、今回の事件も防げたかもしれないと言うのである。私は彼の意見に賛成だ。少なくとも、今回の事件を防げた可能性は格段に高まっただろう。

別居親の存在は、児童虐待防止策として極めて重要な人的資源となり得る。我が国の単独親権制度は、こうした貴重な人的資源をむしろ積極的に刈り取ってしまっていて、児童虐待死のリスクを高めているのである。今回の事件の犯人は、シングルマザーの交際相手である。しかし本件には共犯者がいる。その共犯者こそが、単独親権制度ではないだろうか。