公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.10.08 (金) 印刷する

米上院アフガニスタン公聴会での追及 島田洋一(福井県立大学教授)

9月28日、米上院軍事委員会で、「戦略的失敗」に至ったアフガニスタン問題をめぐる公聴会が開かれた。「戦略的失敗」とは他ならぬ軍制服組のトップ、マーク・ミリー統合参謀本部議長が、アフガニスタン撤退時の混乱を総括した言葉である。公述人は、ミリー氏の他にロイド・オースティン国防長官、アフガニスタンを含む中東地域を担当するケネス・マッケンジー中央軍司令官の軍政、軍令幹部3人であった。

2001年10月から約20年に及んだ米軍によるアフガニスタン介入の最大目的は、米中枢部を襲った9.11テロの実行組織アルカイダと拠点を与えたタリバン政権に壊滅的打撃を与えることであった。

認めざるを得ない「戦略的失敗」

バイデン大統領は、あくまで「立派に目的を達した」と主張するが、ミリー氏は、「アルカイダの残党がアフガニスタンにおり、勢力を増す構えである。一方、米軍撤退により、我々が情報収集、監視、偵察を行うことは遥かに難しくなった。おそらく最も重要なのは、タリバンは一度もアルカイダを排斥したことがないし、連携を断ったこともないという事実だ」とバイデン氏の認識を否定する。

個々の兵士や部隊は撤収作戦を見事にやり遂げたが、全体の構図としては「戦略的失敗」と言う他ないというわけである。

バイデン氏は、タリバンが首都カブールを制圧した直後の8月18日、ABCテレビのジョージ・ステファノプロス(以下GS)キャスターと次のようなやり取りを交わした。

GS: しかしあなたのトップ軍事アドバイザーたちは、この日程表で撤退することに警告を発してきた。彼らは約2500名の米兵を維持することを望んでいた。

バイデン: いや、違う。意見が分かれていた。そこは事実ではない。

GS: 彼らはあなたに対し、兵士を留まらせたいと言わなかったのか。

バイデン: ある期間内にすべての兵士を撤退させるという意味では、彼らは反対論を唱えなかった。

GS: つまり、あなたの軍事アドバイザーの誰一人、「いや、2500名の兵力を維持すべきだ。この数年間、安定が得られてきた。今後も可能だし、続けられる」と言わなかったのか。

バイデン: 私が記憶する限り、誰もそう言わなかった。

しかし、当の「軍事アドバイザー」たちの証言は違う。まず、今年7月まで米アフガン派遣軍司令官を務めた現場指揮官のスコット・ミラー将軍は、2500名規模の兵力維持を強く主張したという。この点に関し、上記公聴会では共和党議員たちと軍幹部の間で次のような応答が交わされている。

だれも責任取るものはおらず

議員: ミラー司令官の強い反対は大統領に届いたのか。

マッケンジー: 私もミラー将軍の進言が協議される場にいたが、大統領は全ての進言を非常に注意深く聞いたと確信する。私自身、2500名を維持するよう大統領に進言した。2020 年秋には4500名維持を進言した。撤退は必然的にアフガン政府軍の崩壊ひいては政府崩壊につながると思った。

ミリー: その証言に同意する。交渉を通じた撤退のためには、2500から3500の兵力を維持することが必要とずっと考えていた。

議員: その意見を大統領に伝えたか。

ミリー: 大統領との会話については明らかにできない。

議員: あなたの役割は大統領を守ることではない。米ABCインタビューでの大統領の発言は虚偽ではないのか。
ミリー: その発言をまだ見ていない。

議員: 私はいま正確に読み上げた。

ミリー: 大統領の発言を分類はしない。

オースティン: 大統領は正直で率直な人物であり…。

議員: そんなことは聞いていない。私の時間は限られている。誰も責任を取る者はいないのか。

議員: (戦略拠点である)バグラム空軍基地への駐留継続案を提示して却下されたのか。

ミリー: イエス。

議員: バグラム維持というオプションを大統領に提示したのか。

ミリー: イエス。

議員: バグラム基地を維持していれば、より効果的にアフガン空軍を支援できたか。

ミリー: 率直に言って分からない。

米政軍トップの判断力に疑問符

結局のところ、「永続戦争」に幕を引いた偉大な大統領として9月11日の同時多発テロ20周年演説に臨みたいバイデン氏が8月末までの米軍完全撤退という「政治的期限」に固執し、米軍の最高幹部たちが異を唱えたものの、辞表を突きつけるほどの強い反対ではなかったということだろう。今のアメリカの政軍トップの判断力には大きな疑問符が付く。