公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2021.10.25 (月) 印刷する

自己規制で日本の海は守れるか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

防衛省は18日、中国とロシアの駆逐艦など計10隻が津軽海峡を通過したと発表した。領海への侵入はなかったというが、中露の艦艇が同海峡を同時に航行するのが確認されたのは初めてである。

同省統合幕僚監部によると、同日午前8時頃、中国艦とロシア艦各5隻が北海道・奥尻島の南西約110キロの海上で発見され、10隻はその後、東に進み、太平洋に抜けた後、大隅海峡を西行して東シナ海に入った。

ロシア極東ウラジオストク沖の日本海では、ロシア軍が演習をしており、中国艦はこれに参加したとみられるが、同省が中ロ両国の意図を分析している。

中露の海峡通過は傍観

中国外務省の報道官は19日、「津軽海峡は国際海峡であり、通過するのは問題ない」と航行の正当性を主張した。大隅海峡もまた国内に五つある国際海峡の一つである。

事実、同じ国際海峡である台湾海峡では、今年になってアメリカは勿論、イギリス、カナダの艦が相次いで通峡している。2年前にはフランスの軍艦が台湾海峡を通峡した経緯がある。

そうであれば、同じ国際海峡である台湾海峡を海上自衛隊の艦艇が通峡しても問題はない。問題は日本の艦艇で、地理的に最も近い位置にありながら日本の海上自衛艦艇だけは通峡したことがない。自制といえば聞こえがいいが、実態は日本政府が中国と揉め事を起こしたくないと自縄自縛の状態に自らを置いているからにほかならない。

対露、対韓でも同じ

筆者が、青森県の大湊を母港とする護衛艦の艦長に任じられていた時は、未だ東西冷戦の最中であり、旧ソ連の艦艇が出航すると、監視行動として情報収集を命ぜられることが多かった。日本海には、監視ラインと呼ばれる、自己規制線が設けられ、その線よりロシア側の海域に入ることは許されなかった。

一方、こうした自己規制を設けていない米艦は、公海であれば何処にでもいけた。ソ連艦の近くでも情報収集ができるため、その米艦から秘匿通信でソ連艦の情報を貰うこともしばしばだった。

1950年代に海上保安庁の船は、島根県竹島の領海に入って日本漁船の保護を行っていた。しかし国際法違反の李承晩ラインが公海に設定されて、日本漁船が銃撃され始めると、日本政府は韓国と揉め事を起こさないよう自縄自縛の状態で竹島に近寄らなくなり、結果的に韓国による竹島の実効支配を許すことになったのである。

原因は憲法に根ざす不戦

その韓国相手に踏んでしまった同じ轍を、今度は中国に対しても踏もうとしている。8月、尖閣諸島に石垣市が新たな行政標識を設置しようとしたが、中国と揉め事を起こしたくない日本政府が許可しなかった。これらの自縄自縛は、総選挙前の自民党総裁選びで、ある候補はいみじくも口にした「憲法の不戦の誓い」に根ざしている。戦う気概がなければ、領土・領海は守れない。岸田新総理は外交・安保では「毅然とした態度」を表明している。是非、期待したいものだ。