北朝鮮は9月上旬から10月中旬の約1カ月余りの間に、相次いで最新ミサイル発射を行った。①9月11-12日「新開発した新型長距離巡航ミサイル」②9月15日「鉄道機動ミサイルシステム」③9月28日「極超音速ミサイル『火星8』型」④9月30日「新規開発の対空ミサイル」⑤10月19日「新型潜水艦発射弾道弾」―の5件だ。
なお、②だけがすでに実戦配備されていることを意味する軍による「射撃訓練」で、残る4件は開発途中を意味する国防科学院による「試射」だった。
開発中の①③⑤に核弾頭が搭載されて実戦配備されれば、現状の我が国のミサイル防衛システムで防御することは難しい。そこで、我が国では敵基地攻撃能力を含む防御手段に関する議論が起きている。その議論をより豊かにするために、ここでは北朝鮮の核ミサイル開発の目的は何か、それを踏まえて我が国がなすべきことについて、私の考えを書く。
核開発は朝鮮戦争休戦前に決意
北朝鮮は自国の核武装は自衛のためだと繰り返し主張している。多くの北朝鮮問題専門家は、北朝鮮の主張に同意した上で、米国との対話を求める手段として核開発をしているという主張をそこに加えてきた。このような議論は間違っている。
北朝鮮がいつから核開発を始めたのかを知るだけでも真実は明らかになる。
1950年6月、北朝鮮の奇襲南侵で始まった朝鮮戦争が休戦するのが1953年7月だが、その数カ月前の1953年3月に金日成は核開発を決意し、ソ連と原子力の平和的利用協定を結んだ。そして、1962年寧辺に原子力研究所を設置し、1963年6月同研究所に小型研究用原子炉(IRT200)をソ連から導入して、核開発を本格化させた。
冷戦後、体制崩壊の危機を迎えて核開発を始めたのではない。朝鮮戦争の最中に開始し、軍事や経済でも南北のバランスが北朝鮮に有利だった60年代に本格化させている。
金日成が核ミサイル開発を決意した理由は、朝鮮戦争が勝てなかった理由を在日米軍基地の存在のためだと総括したことにある。
1998年北朝鮮がテポドン1を発射したとき、私は韓国に亡命した元北朝鮮人民軍のパイロットから次のような話を聞いた。
「自分たち北朝鮮軍人は士官学校に入ったときから現在まで、ずっと同じことを教わってきた。1950年に始まった第1次朝鮮戦争で勝てなかったのは在日米軍基地のせいだ。あのとき、奇襲攻撃は成功したが、在日米軍基地からの空爆と武器弾薬の補給、米軍精鋭部隊の派兵などのために半島全域の占領ができなかった」
「第2次朝鮮戦争で勝って半島全体を併呑するためには米本土から援軍がくるまで、1週間程度、韓国内の韓国軍と米軍の基地だけでなく、在日米軍基地を使用不可能にすることが肝要だ。そのために、射程の長いミサイルを実戦配備している。また、人民軍偵察局や党の工作員による韓国と日本の基地へのテロ攻撃も準備している」
第2次朝鮮戦争で使用目論む
1997年に亡命した労働党幹部の黄長燁氏は「1991年12月に最高司令官となった金正日は人民軍作戦組に1週間で韓国を占領する奇襲南侵作戦を立てた」と証言している。その概要は次の通りだ。
●北朝鮮は石油も食糧も十分備蓄できていないから、韓国を併呑する戦争は短期決戦しかない。1週間で釜山まで占領する。
●韓国内の米韓軍の主要基地を長距離砲、ロケット砲、スカッドミサイルなどで攻撃し、同時にレーダーに捕まりにくい木造の輸送機、潜水艦・潜水艇、トンネルを使って特殊部隊を韓国に侵入させて韓国内の基地を襲う。
●在日米軍基地にもミサイルと特殊部隊による直接攻撃をかける。
●同時に、米国には「これは民族内部の問題であって米軍を介入させるな」と、また日本には「在日米軍基地から米軍の朝鮮半島への出撃を認めるな。それをするなら核ミサイル攻撃をするぞ」と脅す。
●韓国内に構築した地下組織を使い大規模な反米、反日暴動を起こしながら核ミサイルで脅せば、米国と日本の国民が「なぜ、反米、反日の韓国のために自分たちが核攻撃の危険にさらされなければならないか」と脅迫に応じる可能性がある。
金日成は1968年11月、核ミサイル開発を担当していたと推定されている科学院咸興分院開発チームに対して以下のような秘密指令を下している(金東赫・著, 久保田るり子・編訳『金日成の秘密教示』)。
南朝鮮から米国のやつらを追い出さなければならない。われわれはいつか米国ともう一度必ず戦うべきだという覚悟で戦争準備をすべきだ。なにより急ぐべきことは米国本土を攻撃できる手段を持つことだ……米国が砲弾の洗礼を受けたらどうなるか。米国内には反戦運動が起きるだろうし、第三世界諸国の反米運動が加勢することになれば、結局、米国は南朝鮮から手を引かざるをえなくなる。だから同志は一日も早く、核兵器と長距離ミサイルを自力生産できるように積極的に開発すべきである
また、1970年代にも工作員を集めて次のように教示している(同書)。
祖国統一問題は米国との戦いである。米国は2度の世界戦争に参戦しながら、1発も本土攻撃を受けていない。もし、われわれが1発でも撃ち込めば、彼らは慌てふためいて手を挙げるに決まっている
国民の被害に弱い民主国家の弱点を突こうという一種のテロ戦略だ。自衛のためではなく、第2次朝鮮戦争で使って韓国を赤化併呑するために核ミサイル開発を進めてきたのだ。
脅しに負けぬことを対策の中心に
金正恩も実際に核を使用したら米国が核報復をし、自分とその家族も必ず死ぬということは理解している。それでも核武装を最優先で進めている理由は、米軍の介入を防いで韓国を軍事併呑するためだ。
具体的には、奇襲南進をしかけたとき介入すれば、日本と米国を核攻撃すると威嚇することが戦略目標だ。また、米韓軍によって自分と家族が殺害される危険が迫ったときの脅しとしても想定している。
つまり、核ミサイルは脅迫手段として位置づけられている。だから、我が国は彼らが新しいミサイルを開発するごとに迎撃手段を開発するという軍事的対策だけでなく、彼らの戦略を正確に理解した上で、脅しに負けないことを対策の中心に据えるべきだ。
まずなすべきは、日本と韓国に対する米国の核による拡大抑止を強化し、それを積極的に発信することだ。米軍の戦術核ミサイルを日本国内に配備することを早急に検討すべきだ。その上で、第二撃に特化した我が国の独自核武装、原子力潜水艦に積んだ核搭載弾道ミサイルの保持について議論を広く行うべきではないか。