公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.11.01 (月) 印刷する

寿都町長選で現職が当選した意義 奈良林直(東京工業大学特任教授)

北海道の寿都町で、いわゆる「核のゴミ」の最終処分場の文献調査の継続を争点に、10月26日、町長選挙の投開票が実施され、調査継続を訴えた現職の片岡春雄町長が1135票を得て、反対派候補を235票差で破り、6選を果たした。投票率は84%だった。

原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」の最終処分場の候補地を設定する第一段階である文献調査に北海道の寿都すっつ町と神恵内かもえない村の2町村が手を挙げてからほぼ1年。北海道の鈴木直道知事が反対を表明し、朝日新聞など大手メディアが、社説で反対するなかで、片岡町長は、町民との対話を重視してきた。地層処分に関する文献調査の意義や町財政を潤す将来にわたる産業立地の選択肢の1つとして、理解活動に取り組んできた成果が、投票結果に反映されたといえる。

科学的解説なき頭越しの批判

そもそも、選挙期間中のマスコミ報道を見ると、再処理や地層処分の科学的な解説もなしで、頭ごなしに地層処分を批判していたように思う。10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、青森県六ケ所村の再処理工場の竣工と操業と、寿都、神恵内の2町村での文献調査の着実な実施を2030年に向けた政策対応の最重要ポイントに挙げている。

全国の原子力発電所の使用済み燃料は再処理工場で、リサイクルできるウランやプルトニウムを混合酸化物として取り出すが、その際、1トン当たり30キログラムほどの高レベル放射性廃棄物が分離される。

この高レベル放射性廃棄物の廃液は、ガラスの粉末とともに溶融してガラス化する。この溶融ガラスをキャニスターと呼ばれるステンレス容器(外径43センチ、高さ134センチ)に充填、密閉される(下図参照)。こうしたガラス固化体は、現在、再処理を委託した英国やフランスのほか、六ケ所村の高レベル廃棄物保管センターで、鉄筋コンクリート造りの建屋の中で保管されている。

我が国では、最終処分法が制定されており、それによると文献調査の次には、地質調査のためのボーリング調査を行う概要調査、そして地下施設を試掘する精密調査や埋設試験を実施し、複数の調査地点の中から最適地を選定する。

素人丸出しの小泉元首相発言

世界各国の進捗状況を見ると、精密調査を終えたスウェーデンとフィンランドは、処分地が選定済みで、前者は安全審査中、後者はオルキオト原子力発電所の敷地内に「オンカロ=穴」として最終処分場が建設中である。

米国では、ネバダ州のラスベガスから北西160キロの連邦政府所有地ユッカマウンテンを選定し、90億ドルをかけて1987年に建設を始めたが、2009年にオバマ大統領が計画を中止させてしまった。その結果、米国の使用済み燃料は、各発電所の隣接地に多数のコンクリートのキャスク容器に収納されて並んでいる。愚かな決定を下した結果、現在も計画は頓挫したままである。

文献調査は英国も実施中で、ボーリングなどを行う概要調査の段階にあるのは、スイス、中国、カナダの3カ国、処分場の試掘を行っているのがフランスである。さらに文献調査の前段階で地層処分の検討を行っているのは、ドイツ、ベルギー、スペイン、韓国であり、主要先進国はすべて地層処分に取り組んでいる。

わが国やフランスの地層処分は、ガラス固化体にするため、放射性廃棄物が約4分の1に減容されるため、地層処分場の規模も大幅に縮小できる。

小泉純一郎元首相がフィンランドのオンカロを視察してこんな壮大なものを建設できる訳がないと反対の意見を述べているが、使用済み燃料を再処理しないで直接処分する場合と、再処理して減容したガラス固化体として地層処分する場合の違いなども理解せずに、素人丸出しの拙速な発言をしている。

他自治体の呼び水となる期待

次の図は、原子力発電環境整備機構(NUMO:ニューモ)が、我が国の最終処分場のイメージをイラストにしたものだ。トンネルは地下で枝分かれしており、総延長は、青函トンネル数本分になると見込まれている。最終処分場の選定が済むと、数十年から百年以上にわたる土木工事が開始される。

また、ガラス固化体は遠隔自動機械(ロボット)で、トンネルの側壁に開けた収納穴に設置された部厚い銅の容器に差し込まれ、ベントナイトという放射性物質を吸着して遮水する特殊な粘土でその穴を塞ぐ。

島根県の出雲大社に隣接する島根県立古代出雲歴史博物館には何千年も前に埋設された多量の銅の剣や鉾が展示されているが、環境を整えれば銅は腐食に強いのだ。こうして数千年にわたり地下で、静かに放射性物質の減衰を待つのである。人間の活動領域から遮断することにより、人間の管理を必要としない状態に移行させるわけだ。

最終処分場のイメージ図(NUMO作成)

こうした最終処分場の建設とハイテクマシンを駆使した運営は、地元に二、三百年にわたってハイテク産業を立地することにもなる。

先進原子力発電プラント国際会議では、2050年の実質的二酸化炭素の排出ゼロ(カーボンニュートラル)を達成するには、「太陽光や風力などの変動する再エネだけでは無理で、今後約3000基の原発が必要となる」との見通しが述べられた。世界の主要先進国では原発回帰が進み、使用済み燃料の処分場の実現に向けて努力している。

寿都町の文献調査の継続は、我が国もその先進国の仲間入りを果たす意義深いものである。北海道と気候が似ている北欧のスウェーデンやフィンランドでは、最終処分場の立地選定が進み、2020年代から30年代初めには最終処分が開始されることになっている。

鈴木知事は「頬を札束でたたくやり方だ」とも批判しているが、自治体の首長として、全く不適切で礼を失した発言である。わが国国民が、片岡町長の取り組みに感謝し、さらに他の自治体からも文献調査の手が挙がることを期待したい。