日本で衆院選の選挙戦がたけなわだった10月後半、中国海軍とロシア海軍の艦艇計10隻が隊列を組んで日本列島をほぼ一周するという特異な行動を見せた。中国を念頭に日米や豪州、英国が今年夏以降、南シナ海などで多国間訓練を活発化させたことに対抗し、中露の軍事的連携を誇示する狙いがあった。ただし、中露が日米のような本格的な軍事同盟を形成することは考えづらく、中露の示威行動に動じるべきではない。
日米などの対中行動をけん制
中露海軍は10月14~17日に日本海で合同演習「海上連携2021」を行った。その後、中露の艦艇各5隻がそろって津軽海峡を通過し、太平洋を南下して鹿児島の大隅海峡を抜けた。「海上連携」と称する合同演習は2012年からほぼ毎年行われており、日本周回の航行はその延長線上で行われた。
中国からは昨年就役したレンハイ級駆逐艦「南昌」が、ロシアからも新鋭コルベット艦「グロムキー」などが参加した。中露の艦隊が津軽海峡や大隅海峡をそろって通過したのは初めて。露国防省は「中露が10月17~23日に西太平洋で初の合同巡航(パトロール)を行った」と発表し、「露中の国旗を見せること(デモンストレーション)」や「アジア太平洋地域での平和と安定の維持」が目的だったと説明した。
今回の合同航行が、日米をはじめとする民主主義陣営の対中行動を念頭に置いていることは疑いない。英国は9月、空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群を日本に寄港させ、その航行過程では東南アジア諸国や米国との演習を重ねた。日米豪印の4カ国も8月以降、フィリピン海やインド洋ベンガル湾で合同訓練「マラバール」を行った。
ロシアにも対米けん制の思惑
こうした背景から、日本周回を準備する音頭をとったのは中国でないかとの推測が成り立つ。ロシアとしても、中国との結束をアピールすることには米国への牽制球としての意味がある。西太平洋で中国に協力する見返りに、欧州方面の黒海やバルト海で行う演習には中国の参加を得ようといった思惑も考えられる。
日本は今回の中露連携プレーをどう受け止めるべきか。東大先端科学技術研究センターの小泉悠特任助教(ロシア軍事)は2つの点に着目している。
第1に、中露艦隊が通過したのは津軽海峡や大隅海峡であり、北方領土や尖閣諸島に近い海域は通らなかった。中露がそれぞれ北方領土と尖閣の問題に触れたくなかったことの表れだといえる。第2に、日本海での演習「海上連携2021」では対潜水艦訓練が行われたが、参加したのは通常動力潜水艦だった。戦略性の高い原子力潜水艦を投入するほどには中露の関係が強くないと見ることができる。
中露が米国陣営に対抗する狙いで軍事的結束を強めているのは確かな事実だ。同時にしかし、中露の根本的な国益が合致しない部分は多く、両国が日米のような真の軍事同盟を結ぶ可能性は高くない。
中国はロシアのクリミア併合を承認しておらず、欧州方面でロシアの紛争にはかかわりたくないはずだ。ロシアも台湾や南シナ海をめぐる問題に巻き込まれるのは御免で、中国と対立している国々との経済関係も重視している。中国とだけ関係を深めれば、総合的国力で劣るロシアは中国の弟分として埋没するのみであり、この点をプーチン露政権も理解している。
日本としては、「軍事同盟に近づいている」と誇示する中露の術策にはまり、米国などとの結束を緩めてしまうことが最大の悪手であろう。