10月25、26日に言論NPOなどが主催する日中対話が行われた。筆者は、今回の対話には参加していないが、2年前に参加したことがある。この時は、中国側の参加者は人民解放軍軍人と、同軍と極めて関係が深い中国国際戦略研究基金会の張沱生教授であった。
言論NPO代表の工藤泰志氏は、対話の目的を日中の信頼醸成においている。筆者も1992年にスタンフォード大学の国際安全保障・軍備管理研究所で経験した日米露海軍大佐3名作成の「太平洋における海軍協力:将来を見据えて(Naval Cooperation in the Pacific :Looking to the Future) 」のコピーを要求されたことがある。しかしながら、中国側の発言を聞いていると信頼醸成の意思は感じられず、日米分断という政治工作の意図を感じた。
出席者は政治工作のプロ
例えば、2年前も人民解放軍のある高級幹部は「日本は防衛政策を米国に依存しているが、独自の防衛政策や装備を追求すべき」と発言した。筆者は「独自の防衛政策となれば日本の防衛費は拡張され、究極のところ核武装に至るが、それを中国は望んでいるのか?」と切り返したら中国側の参加者は全員が黙り込んでしまった。
張沱生教授とは、2年前の日中対話以前にも2回、日中の信頼醸成会議で同席したことがある。最初は、13年前にスウェーデン外務省が主催してストックホルム郊外で行われた日中信頼醸成会議であったが、彼は総理の靖国神社参拝を非難する強烈なプロパガンダを行った。
この時は現役の人民解放軍少将だった姚雲竹氏も一緒だった。彼女は今回の日中対話で、麻生副総理が「台湾有事は日本の有事」と発言したことを非難して、台湾有事に自衛隊の関与をさせないよう政治工作を行っている。
中国側の代表はいつも大体同じ顔ぶれで、人民解放軍でプロパガンダを専門とする工作機関のプロだ。
クアッド攪乱する企図も
次に張沱生氏と会ったのは9年前で、中国の大連で北東アジア海洋安全協力会議が行われた時であった。この時は人民解放軍から参加した海軍大佐が、中国海軍艦艇が国際海峡である津軽海峡を通過するのは何ら問題ないと執拗に主張した。今から思えば、今回の中露艦艇による津軽通峽同時通過の布石であった可能性もある。
この時の会議は、クリントン政権で国務次官補であった米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のスーザン・シャーク教授が主導した。そのUCSDが今年主催したリモートによる日米豪印4カ国協力(クアッド)の海洋分野に関する会議(Maritime Dimensions of the QUAD)にも、現在は人民解放軍を退役した姚雲竹氏(中国軍事科学学会・上席顧問)が参加し、中国のクアッド参加の可能性を問うなど、撹乱を企図した。
日中の信頼醸成を企図して会議すべてにおいて中国は、信頼醸成の意図など少しも見せることなく、拡張戦略のための政治工作を仕掛けている。