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2021.11.24 (水) 印刷する

立憲の代表選が盛り上がらぬ理由 有元隆志(国基研企画委員兼産経新聞月刊「正論」発行人)

立憲民主党の代表選(11月30日投開票)が盛り上がりに欠けるのは、4人の候補者からいま日本が直面する厳しい国際情勢に対する危機感が一向に伝わってこないからだ。誰が選ばれても、自民党にとって代わる政党に生まれ変わらせることはできないだろう。

同じ4氏による争いと言っても、9月の自民党総裁選との違いがあまりにも大きすぎる。自民党では経済、安全保障などで激しい政策論争が展開され、各陣営による党員票、議員票の獲得合戦もコロナ禍ではあるが熾烈だった。それに引き換え、立憲民主党の代表選は論戦も低調で、高揚感もまったくない。

「共産との決別」を誰も言わず

最大の問題は4候補ともに10月の衆院選での日本共産党との共闘は間違っていなかったとの認識を示したことだ。本当にそう思っているのか。共産党が前回選挙の半分しか小選挙区で候補者を立てず、213の選挙区で野党候補が一本化したことに恩義を感じているからなのか。それでは、比例代表で立憲民主党の議席を公示前の62から23も減らした理由をどう説明するのか。

共同通信の世論調査でも、無党派層のうち立憲民主党に投じられた票は4年前の30%から6ポイントも下回った。市民連合が仲介した形で、共産党との間で「限定的な閣外からの協力」で合意したことに対し、立憲民主党の最大の支持団体である連合が反発した代償も大きかった。

自民党の総裁経験者から「総裁選では右に振れ。総選挙では真ん中にもってくる。それが勝つためには必要」と聞いたことがある。

立憲民主党の前身である旧民主党の参院国対委員長だった加藤敏幸氏も「時事ドットコム」に寄稿し、「維新を除く野党の候補者絞り込みにより、確かに自民党との激戦区は増えたが、それだけに終わった、ともいえる。まとめていえば、中道の沃地(よくち)を放棄して何の選挙戦略か、ということであろう」と総括した。

立憲民主党は憲法や安全保障分野での与党との「対立軸」を重視する「岩盤リベラル」に固執しすぎて、中道にウイングを伸ばすどころか、より左の共産党に伸ばしてしまったため、支持が広がらなかったということだろう。

共産党との連携には距離を置いた国民民主党の玉木雄一郎代表が選挙前の9月9日のBS日テレ「深層NEWS」で述べたように、日本国民は現実的な安全保障政策を望んでおり、「中道保守を包含する結集軸でやらないと政権を取れない」のである。にもかかわらず、代表選では共産党との決別を誰も言おうとはしない。

「改正前提なら憲法議論せず」

4候補は、政策面でも相変わらず「岩盤リベラル」層を意識してか、沖縄県普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古(名護市)への移設工事の中止にそろって言及した。

憲法改正でも、議論そのものは容認する姿勢を示したものの、改正が前提となる議論ならば反対するとの立場を明確にした。

4候補は、衆院選公示日に北朝鮮が日本海に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射し、選挙期間中には中国とロシアの艦艇十隻がほぼ日本を周回するという「我が国への示威活動」(岸信夫防衛相)を行ったことをどのように認識しているのだろうか。中でも、世界の覇権を狙う強権国家への変貌を遂げている中国とどのように立ち向かうのか、4候補からは「覚悟」は伝わってこない。

立憲民主党が行うべきことは、国民民主党や日本維新の会と連携し、これまでの路線を転換し、積極的に憲法審査会での憲法論議に参加することだ。論戦に参加する中で、国民民主党などとの連携を深め、協力関係を再構築することができる。

そして、「他の政党との相違点は野党連合政権には持ち込まない」とは言っても、日米安全保障条約の破棄、自衛隊は違憲などの看板を下ろそうとはしない共産党とは限定的であっても閣外協力も結ばないことを明確にすべきだろう。

そうでないと、このままだとさらに共産党に引きずられていくだけだ。枝野幸男代表時代のように、憲法改正議論には加わらず、森友学園などの問題を追及し続け、国家が直面する危機に関する論戦を避け続ける姿勢を取り続ける政党に未来はない。