中国海軍の測量艦が19日、鹿児島県屋久島付近で領海侵犯した。10月後半には、中国海軍とロシア海軍の艦艇計10隻が隊列を組み、津軽海峡や大隅海峡を通過して日本列島をほぼ一周する威圧的な行動を見せたばかりである。ロシア艦艇はその後も対馬海峡から日本海へ抜けている。
メディアの多くは、領海侵犯や日本に対する示威行為のみを脅威として報道しているが、それだけではない。実は日本と外国とを結ぶインターネット回線の99%が無防備な海底ケーブルに依存しており、その破壊や情報摂取を中露が狙っていることに我々は留意しなければならない。
中国と西側の熾烈な争奪戦
海底ケーブルの製造は米国のサブコム社と日本のNEC, 欧州のアルカテル・サブマリン・ネットワークスで9割を占めるが、そこに中国通信大手の亨通光電 (ヘイトン)が華為技術(ファーウェイ)の海底ケーブル事業を買収して名前を変えた華海通信技術(HMN Tech)が食い込んでいる。
中国は、自国に全く関係ない西アフリカのカメルーンとブラジルを結ぶ海底ケーブルをカメルーン・テレコムと共有している。中国はかつて、チリと結ぶ海底ケーブルにも触手を伸ばしていたが、西側が巻き返し、チリからは、ニュージーランド、オーストラリア経由で東京と結ぶことになった。
こうした西側の危機感から昨年8月、トランプ政権下のポンペオ国務長官は、通信ネットワークから中国企業を排除する「クリーン・ネットワーク計画」を打ち出し、海底ケーブル市場でも中国を締め出し始めた。
その結果、東南アジアと米国本土を結ぶ大容量光海底ケーブルに接続する2本目のパラオ海底ケーブルの敷設事業は、日米豪主導で行われることになった。現在も東ミクロネシアの海底ケーブル敷設事業は、キリバスと外交関係を持つ中国と、ナウルと外交関係を持つ台湾、そしてそれを支援する米国との間で苛烈な綱引きが続いている。すなわち、世界の海底ケーブル敷設事業は中国と西側の熾烈な戦いの場になっているのだ。
無防備なケーブルと陸揚げ局
第一次世界大戦ではドイツの海底ケーブルがイギリスによって切断された。冷戦中、米潜水艦が死者まで出してソ連の海底ケーブルから情報収集した事実を本にしたBlind Man’s Bluff(日本語訳『潜水艦諜報戦』)が1990年代後半に出版されている。
現在、中国は無人潜水艦「海翼」を12隻航行させており、先月も潜水艇「海斗」が潜航深度の世界記録を更新した。
海底ケーブルは、切断されたり情報を摂取されたりすれば被害は甚大である。にもかかわらず、少し沖合に出れば丸裸の海底ケーブルが視認される。それを収束して首都圏に分配している陸揚げ局も、何らセキュリティー上の対策は取られていない。
サイバーセキュリティーの専門家である慶應義塾大学の土屋大洋教授は、こうした危機的状況に以前から警鐘を鳴らしてきた。最近出版した『サイバーグレートゲーム』に、その詳細が記述されている。
日本以外の国では陸揚げ局内の海底ケーブル端末装置保護のための法整備が行われている。被害を受けてからでは遅い。日本は早急に対策を講じる必要がある。