公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.12.21 (火) 印刷する

憲法は全面改正であるべきだ 髙池勝彦(国基研副理事長・弁護士)

先日の衆議院選挙で、憲法改正に消極的な立憲民主党が共産党と提携したことも一因で、議席数を減らし、所謂改憲勢力が衆議院の3分の2以上の議席を得たことは御同慶の至りである。その結果、開店休業状態で国費を無駄に使つてゐると非難されてゐた衆院憲法調査会が国会開会と同時に、12月16日、早速討議を始めたことは喜ばしい。

当然あるべき規定も欠く現憲法

私は何度も「ろんだん」で主張したやうに(2017年6月7日付<西教授の「ろんだん」に異論あり>、同年6月15日付<加憲では根本問題解決せず、西教授への再反論>)、憲法は個々の条文の改正ではなく、全面改正であるべきだと思つてゐるが、軍隊のあり方や、緊急事態条項など、憲法にどのやうな条文を加へるべき具体的に議論すべきことは必要である。

私が全面改憲にこだはるのは、主権がない状況下で制定された現憲法には正統性がないからであり、実際にも、現憲法は、緊急事態条項など普通の国の憲法には当然あるべき規定も欠如してをり、まさに占領基本法であるからである。

今まで全面改憲論が盛り上がらなかつたのは、占領軍の命令や、議論をしたとしても占領軍の意向を忖度した屈辱的な制定過程に目をつむり、国民に真実を伝へなかつた政治家や憲法学界の責任である。

今こそ憲法の制定過程思ひ起こせ

西修駒澤大学名誉教授は、全面改正どころか、できるところから憲法改正をすべきであると主張され、<「軍」にこだわり、いつ実現するかわからないことと、「自衛隊」を位置づけることの必要性と意義を比較考量すれば>加憲ではよいではないかと主張される(2017年6月12日付「ろんだん」<「百年河清を俟つ」でいいのか、髙池氏の異議に答える>)。

長年憲法改正を主張し、努力されてきたのに、いつまで経つても動かない政治に対する西教授の焦燥感は十分理解できるが、私は、今までのやうな憲法に対する無神経無感覚では、加憲であつても実現しないと思つてゐる。

全面改正といふといかにも現実無視の夢想であると誤解する向きもあるが、現憲法とそれほど異なる内容になるわけではない。私は、たとへば、皇室制度、国会(議会)や内閣制度、人権規定などを見ても、旧憲法(大日本帝国憲法)と現憲法との間もそれほど大きな違ひはあるとは思つてゐない。旧憲法を反民主主義的、人権抑圧的に描いてきたのは、憲法学界の偏見である。新しい憲法には、国の制度や人権規定など基本的な規定など、その後の進化を取り入れればよいだけである。

今こそ憲法の制定過程を思ひ起こして、全面改正に向けて個々の条文の審議を進めるべきである。