公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.01.24 (月) 印刷する

皇室と自衛隊の距離は遠すぎないか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

15日にトンガ諸島で海底火山の大規模な噴火が発生した。トンガと言えば、親日的な王国で、筆者が広島県の江田島にある第1術科学校の学生であった昭和53年には、国王御夫妻が来校され、学生の行進を観閲された。あれから約45年が経過するが、日本の皇族が自衛隊を観閲したと言うニュースには接した事がない。

昨年末に除籍された護衛艦「せとゆき」は、「髭の殿下」の愛称で親しまれた寛仁親王が平成22年にご乗艦された事で、戦後最初の御召艦となり「皇族旗」をマストに掲揚したが、それ以後、皇族が海上自衛隊の艦船に乗艦されたとするニュースはない。

日本の天皇は、国際的に見れば諸外国の元首に相当する事は間違いない。その天皇と、国軍に相当する自衛隊との距離は遠すぎはしないだろうか。王室を戴いている諸外国との比較を通じて、その異常性を指摘したい。

英国は「女王陛下の軍艦」と明記

昨年9月に、英空母を中心とする機動部隊が東アジアに来航して自衛隊と共同訓練を行った。英国の構成艦の名には、英空母クイーン・エリザベスを始めとしてHMS(Her Majesty’s Ship)が接頭辞として付く。即ち女王陛下の軍艦と言う意味である。カナダの軍艦も1隻参加したが、接頭辞はHMCS(Her Majesty’s Canadian Ship、女王陛下のカナダ軍艦)である。またオランダの軍艦も1隻参加していたが、その接頭辞はHNLMS(His/Her Netherlands Majesty’s Ship)、即ち国王陛下の軍艦と言う意味だ。北欧の王国であるデンマーク、ノルウェー、スウェーデンの軍艦も同様に陛下の艦艇の意味の接頭辞が付与されている。

年頭に、自衛隊と共同訓練を行う際などの対応をあらかじめ取り決めておく「日・豪円滑化協定」を結んだオーストラリアの軍艦もHMAS(Her Majesty’s Australian Ship、女王陛下のオーストラリア軍艦)という接頭辞が付与されている。ニュージーランドの軍艦の接頭辞もHMNZS(Her Majesty’s New Zealand Ship)である。

筆者は諸外国の士官学校を約50校訪問したが、王室を戴く国の士官学校名は、例えばカナダの統合士官学校のようにRoyal Military College of Canadaと、最初にRoyal、即ち「王立」の接頭辞が付与されている。

アジアで王室を戴くタイ、マレーシア、ブルネイ等の軍も接頭辞にRoyalが、また軍艦には「陛下の」と言う意味の接頭辞が付与されている。

却下された「陛下と一緒の写真」

海上自衛隊の幹部は、任官して遠洋航海に出発する前に、元海軍軍人であった高松宮宣仁親王御夫妻主催の招宴の栄誉にあずかる。

また自衛隊の将官が集まる年1回の高級幹部会同では、会同後に皇居に参内して陛下から御言葉を戴く栄誉が与えられ、筆者も4回その恩恵にあずかったが、一般隊員はそうした栄誉からは程遠い。

寛仁親王はまた、若き自衛官との懇談を御希望になり、筆者がやはり海上自衛隊の第1術科学校の学生であった昭和47年にその機会を得た事があった。寬仁親王次女の瑶子女王殿下は剣道を嗜まれ、全国自衛隊剣道大会に御臨席された事もあった。

寛仁親王(前列中央、当時26歳)の向かって左隣が筆者

しかし上記のような例は稀である。筆者が「防衛白書」を担当した際、第4部の「国民と防衛」に、陛下と自衛隊が一緒に写っている写真を掲載することを提案したが、担当審議官に却下された。王室を戴く諸外国と比較して、余りにも国軍に相当する自衛隊との距離は遠過ぎないだろうか。