公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.01.24 (月) 印刷する

成長戦略に必要な重点研究とは何か 奈良林直(東京工業大学特任教授)

岸田文雄内閣の「グリーン成長戦略」が、「クリーン成長戦略」に変わった。「グ」と「ク」では1文字違うだけだが、ドイツやスペインなどの太陽光や風力発電では、効果的にCO2を減らすことができないことは、昨年英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)までの世界の壮大な実証試験で明確になった。

また、東芝、日立、パナソニックなどが、事業の一部を中国などに切り売りしている。過去十年以上にわたり、再生可能エネルギー優先政策は、世界の先進国のなかで最も高い電気代となって、日本の産業界を蝕みつつある。

欧州連合(EU)は環境に配慮した経済活動かを認定する基準として「EUタクソノミー(分類)」を定めているが、その中に天然ガスとともに原子力が追加されることになった。脱原発を主張するドイツと折り合いをつける必要があるが、廃棄物処理などに一定の期限を設けることなどが落としどころと言われている。

EVだけに前のめりの危うさ

電気自動車(EV)は、従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンに代わってモーターが駆動源になる。近年のハイブリッド車(HV)を含むEVの急速な普及は、モーターの高性能化によってもたらされている。

EVのモーターは、強力なトルクを生み出すネオジウムなどの希土類元素を少量混ぜて合金とした永久磁石が不可欠だ。加えてリチウムイオンバッテリーにはリチウム鉱石やニッケル、グラファイトなどの鉱物資源が必要で、国際エネルギー機関(IEA)は現在の自動車の42倍も必要となると推定している。風車の発電機なども同じだ。

それならば、トヨタの社長が自らハンドルを握ってPRしている水素自動車のハイブリッドカーの方がよほど、現在の我が国の自動車産業の強みを生かせるのではないか。この車は、燃料電池車に搭載する高圧水素ボンベと水素で燃焼するエンジンで走る。車を「スマホ化」したり、人工知能(AI)運転の技術を搭載したりするのはEVと変わらない。アルミと鉄があれば、自動車は作れる。

国内の電気料金を下げて日本メーカーが国際競争力を回復するためには、原発に勝るものはない。原発については殊更にリスクばかりが強調されるが、筆者が開発に注力したフィルターベントを搭載すれば、事故のリスクは1億分の1以下に低下することがPRA(確率論的リスク評価)で証明されている。重大事故時において原子炉格納容器の過圧破損を防ぐもので、機械学会でワーキンググループを立ち上げて我が国すべての原発に搭載することになっている。

再処理工場は地下の地質構造を評価しなくてはならないため、今年秋の商業運転は無理となったが、必ず運転開始しなくはならない。高レベル放射性廃棄物の地層処分場の選定がまだ文献調査の段階であるが、高速炉を用いれば、強いガンマ線や熱を出す高レベル廃棄物を半減期の短い物質に変えることができる。そうなれば保管期間は、数千年から300年ほどに短縮できる。米国GE日立(GEH)社が開発を進めたPRISM(プリズム)という小型高速炉でそれが可能だ。実は、「常陽」でも「もんじゅ」でも可能だったのだが、「もんじゅ」は廃炉にされ、「常陽」は、「もんじゅ」の廃炉費用に予算が取られたことから、遅々として再稼働が進まない。

まだまだ活用できる日本の技術と人材

第6次エネルギー基本計画には、我が国の国家利益を最大化する基本的成長戦略が欠如している。太陽光パネルや風力発電機、最新型原発も中国製になり、EVでも鉱物資源確保の問題と高い電気代では、日本は中国や欧州メーカーに勝ち目がない。このままでは、中国が手中にするレアアース資源から自動車産業用電磁鋼板、高性能電池、IT(情報技術)・AIによる自動運転技術まで、全ての分野にわたって中国の後塵を拝しかねない。

我が国が、これから国策として重点化すべき開発は、半導体、電力用のパワー半導体、省電力サーバー、インターネット(IoT)を駆使した生産システム、事務作業や意思決定を迅速処理するAIだろう。

そして国を守るための極超音速ミサイルや巡航ミサイル、その数倍の速度を持つ超電導レールガンの開発にも取り組む必要がある。マッハ50になれば発射から約60秒後に敵基地やミサイル発射装置を破壊することができる。これは隕石の大気圏突入時の速度だ。

安全性を高めた小型モジュール原子炉(SMR)や原子力推進宇宙船など、すべて我が国が得意とする技術で開発が可能だ。超電導技術でロケットを発射すれば、航空宇宙産業が発展する。そして、その分野に優秀な人材が集まれば、関連産業が発展し、我が国は再び成長軌道に乗ることができる。

東工大で開発を開始した再エネ共存型SMR(小型モジュール炉)