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2022.01.27 (木) 印刷する

国基研提言実行すると総理が国会答弁 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授・国基研企画委員)

国家基本問題研究所は昨年、専門家らを結集して歴史問題国際広報研究会(座長・西岡力)を組織し研究を進め、11月29日に政策提言「歴史認識に関する国際広報体制を強化せよ」を公表し、同日、自民党の高市早苗政調会長に提出した。

提言の全文は国基研HPにあるが、その第1項が「首相官邸の副長官補室で展開してきた『事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報』を継続強化せよ」だった。実は、ここで言及した、副長官補室による歴史認識の国際広報は、国基研が平成28年1月に最初の政策提言「歴史認識に関する国際広報体制を構築せよ」で外務省の外に担当部署を作れと求め、それが安倍晋三政権に受け入れられて実現したものだった。ところが、昨年9月に発足した岸田文雄政権ではその体制が継続されているのかどうか不透明だった。そこで昨年11月の提言で岸田政権に改めてその継続強化を求めたのだ。

国際広報体制の継続、強化求める

岸田政権は歴史認識問題への取り組みが弱いのではないかと強く危惧される出来事が今起きている。昨年12月末、文化庁が佐渡金山をユネスコ文化遺産推薦候補に選定したにもかかわらず、政府が最終決定を引き延ばしているのだ。先週には一部マスコミで推薦しない方向で調整中などと報じられた。

その中で1月24日午前、衆議院予算委員会で高市政調会長が岸田総理に推薦を決めるべきだと迫る質問を行って、注目を集めた。また安倍元総理が繰り返し「論戦を避けるかたちで登録を申請しないのは間違っている」と発信し続けていることもあり、岸田総理は当初の推薦見合わせ方針を貫くかどうか迷い始めたという。結果はすぐわかるので、そのことについてはそのときに本格的に論じたい。

ここで報告したいことは、高市政調会長の質問の中に、「首相官邸の副長官補室で展開してきた『事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報』を継続強化せよ」という国基研提言がそのまま反映されていたということだ。

高市氏は佐渡金山を巡る質疑をした直後に、歴史認識に関する国際広報体制全般について岸田総理の考えをこう質した。

「第2次安倍内閣では、安倍総理の指示で、内閣官房副長官補室による国際社会に向けた歴史広報が始まり、菅内閣もこれを引き継がれました。韓国や中国とのいわゆる歴史戦に係る摩擦対処は、本来は外務省の仕事ですが、外務省には相手との協調を大切にする役割もございます。摩擦対処の役割を副長官補室に移したことによって、外務省としては、主張すべきことは主張しながら、よい関係を築く外交がしやすくなったということも安倍内閣当時報じられておりました。事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報を継続、強化することは、日本の名誉と国益を守る上で必要だと考えます。岸田内閣でも内閣官房副長官補室は歴史認識の国際広報を担っておられるのか、総理に伺います」

傍線部分は国基研提言の表現そのままである。まさに、高市氏は国基研が求めていることをそのままズバリ、国会の場で岸田総理にぶつけたことになる。

「いわれなき中傷には毅然と対応」と明言

それに対して岸田総理は自分の内閣でもその体制を引き継いで歴史問題に取り組むと次のように明言した。その部分を引用する。

「歴史認識に係る問題については、私の内閣においても重視をしております。政府としては、国際社会において、客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、我が国の基本的立場やこれまでの取組に対して正当な評価を受けることを強く求め、いわれなき中傷には毅然と対応してまいります。そして、御質問に対するお答えですが、私の内閣においても、歴史認識に係る問題について、安倍内閣以来の体制を引き継いでおり、内閣官房副長官補室を中心に、政府全体で、国際広報を含め、歴史問題にしっかり取り組んでいきたいと考えております」

高市氏はこの総理答弁だけで満足せず、やはり国基研提言に基づき、歴史認識への取り組みを制度化すべきとして、次のように迫った。

「ここ数年、歴史認識の国際広報というのは、時の総理による政策判断で行われてまいりました。 私は内閣の任務として制度化すべきだと考えるんですが、総理のお考えを伺います」

これに対しては松野博一官房長官が内閣法の規定を根拠として、副長官補室が取りまとめて政府全体で取り組んでいくと明言した。これも大きな成果だ。その答弁を引用する。

「歴史認識に関わる問題につきましては、複数の省庁にまたがる案件が多く、かねてより、内閣官房の外政担当の副長官補が取りまとめて、政府全体としての対応を行ってきたところであります。内閣官房は、内閣法において、内閣の重要政策に関する基本的な方針に関して企画立案、総合調整を行うこととなっているところ、引き続き、こうした規定を踏まえて、歴史認識に関わる問題についても、官邸の司令塔的役割の下で、政府一体となって取り組んでまいりたいと考えております」

シンクタンクの役割の一つは政策提言である。国基研はこれまで多くの提言を行ってきた。提言は、やはり実現されることが目的だ。今回、昨年11月に国基研が出した「首相官邸の副長官補室で展開してきた『事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報』を継続強化せよ」という提言が自民党政調会長によって国会で取り上げられ、それに対して総理と官房長官が提言を実行すると答弁した。これは国基研のシンクタンクとしての役割が高く評価されたことを意味すると。手前味噌ながら強調したい。
 

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活動報告

政策提言 「歴史認識に関する国際広報体制を強化せよ」 発表

令和3年11月29日