公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.02.07 (月) 印刷する

台湾有事で高まる米国の対日期待 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

3日(米国時間では2日)、博士号を取得した母校の米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(School of Advanced International Studies-SAIS-)で、リモートによる講演を行った。テーマは「台湾有事は日本の有事」である。

約30分の講演後、30分程度の質疑応答を行ったが、それを通して日本に対する米国の期待を感じた。

同盟はともに汗をかく関係に

最初の質問は、筆者を紹介した司会者のケント・カルダー副学長兼ライシャワー・センター長が発した「日米同盟は強化されているか? そうだとすれば原因は何か?」であった。ライシャワー・センターでは、毎年『グローバルな文脈における日米(The United States and Japan in Global Context)』を出版しているが、そのことが示すように、筆者は「当初の日米同盟は、米国が日本の安全を保障し、代わりに日本が基地を提供する関係であったが、(平和安保法制等により)日本も共に汗をかく関係になっているからだ」と答えた。

カルダー教授は「東日本大震災における日米の<ともだち作戦>も影響しているのではないか?」と適切な指摘をしてくれた。筆者も「その通りで、震災当初、米軍は自衛隊の本気度を観察していたが、自衛隊が命を賭して活動する姿を見て本格的な支援に踏み切った」と応じた。

質疑では「台湾は2025年に原発を全廃してしまう。危機時に日本は台湾にエネルギーを支援できないか?」と言う質問もあった。台湾有事には日本のエネルギー調達の生命線である海上交通路も脅かされる事態だが、一方で米国はシェールガスの開発で天然ガスの純輸出国となっている現状から「米国が支援するのが最も現実的ではないか」と回答した。

ウクライナ危機でも協力要請

報道によれば、米国が日本に「ウクライナ危機でエネルギー不足に陥る欧州に液化天然ガス(LNG)を融通できないか」と打診し、日本も検討に入ったという。ここにも米国の同盟国日本への期待を感じた。「仮にロシアがウクライナに軍事侵攻した場合、日本は対露制裁に加わるべきではないか?」との質問もあり、筆者は「台湾有事に欧州諸国の支援を得るためにも日本は当然、制裁に加わるべき」と応えた。グローバルな安全保障に関して日本への期待感が現れている。

「中国の台湾侵攻があるとすれば何時頃と見積もっているか?」という質問もあった。これに対しては、今年秋の中国共産党大会で習近平総書記(国家主席)は3期目に突入し、2049年の建国100周年前には台湾併合を終わらせたいことなどから、「2020年代後半から30年代初頭が危ないのではないか」と回答した。ちなみに、SAISの教授であるハル・ブランド(Hal Brands)博士は、昨年、米外交専門誌フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)に、「中国は衰退国家であり、それが問題(China is a declining power and That’s the problem)」と題する論文を寄せ、中国は人口減少や経済成長率の鈍化のため、国力が凋落する前に台湾併合を試みる可能性を指摘している。

台湾有事に、韓国の軍事的支援の可能性についても問われたが「韓国は北朝鮮に手一杯であり、日米豪印の4カ国枠組みであるQUADへの参加意志も示していないので期待できない」と応えた。

いずれにしても、台湾有事では最前線に立たされる最大の同盟国日本に対する米国側の期待を強く感じた。