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2022.02.10 (木) 印刷する

対北制裁の効果示す内部文書を入手 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授・国基研企画委員)

最近、私は対北朝鮮制裁が大変効果をあげていることを示す内部文書を入手した。そこには「だれでも(生活が)『苦しい』『大変だ』という言葉がすぐ出てくる」「(このままでは)東ヨーロッパの社会主義背信者たちのような革命の敵が出てくる」などと書かれていた。

私が入手したのは2021年8月に幹部と人民への政治講演のために作られた「幹部および群衆講演資料」だ。A4で8ページの同資料には「反社会主義、非社会主義との闘争を強度高く展開し、人民大衆中心の我々式社会主義を堅く固守することについて」という表題がついている。ここに書かれた内容を元に全国で政治講演が行われたのだ。

そこでは「反社会主義」「非社会主義」の具体的事例が以下のように赤裸々に書かれていて、北朝鮮社会で今起きていることがよくわかる。

経済的苦しさのホンネを吐露

まず、韓国の文化がかなり浸透していることが明記されている。

「一部若い男女たちの間で血肉関係ではないにもかかわらず、お互いをオッパ(お兄さん)、トンセン(妹)と呼んでいる。過ぎた時期に我々が強力な闘争を展開したが、いまだに傀儡(韓国)の言葉を使う現象がなくなっていない。これは少なからぬ青年たちが低劣で退廃的な傀儡文化に染まっていることを示している」

「今、扶養女性たち(家庭の主婦たち)と青年たちの間で不純録音録画物(韓国のテープやDVD)の視聴と流布行為、宗教迷信行為をはじめとする危険な犯罪行為が盛んに行われていることが問題だ」

ここで言われている「宗教迷信行為」の中には、韓国の教会が精力的に北朝鮮に対して行ってきたキリスト教布教活動も含まれる。地下教会は、かなり広がっているという情報がある。

次に経済的な苦しさの吐露だ。

「一部の人たちは国の経済状態が困難で人々が生活上の困難を経験しているために、反社会主義、非社会主義的行為が出てくることは仕方がないかのように思っている。とても間違った考えだ。もちろん、今、国の経済状態が困難で人々が生活上の困難を経験していることは事実だ。だからといって、我々が反社会主義、非社会主義的行為が出てくることを経済の難関からもたらされる避けられない結果と見て良いのかということだ。率直に言って今、だれからも(生活が)『苦しい』『大変だ』という言葉がすぐ出てくるのだが、今の状態がいくら困難だとしても、灰しか残っていなかった何もない土地の上に素手で復旧事業を進めた戦後の時期や千里馬大高潮の時期とは比較にならない」

凶悪犯罪の発生と治安悪化

犯罪の横行と治安の乱れについても赤裸々に書いている。

「全国的範囲で麻薬を使用したり、密売したりする行為、個人の財産を奪う行為、偽商品と偽薬品の製造、密売行為をはじめとする社会的危険性が大きい犯罪行為がなかなか減っていかないでいる」

「2021年3月に、ある市では市の社会給養管理所で運営する食料品販売台で販売した、フルーツの香りのサイダーを飲んだ複数の住民が、ひどい下痢のため病院に運ばれる事故が発生した。該当機関が調べたところ、サイダーの中に人体に害を与える物質が入っていた。事件発生後に市の他のいくつかの食料品販売台で販売される食料品に対して集中的な調査分析をした結果、少なくない食料品が安全基準をひどく超過する衛生学的にとても不潔な製品だということが判明した」

「殺人、強盗、強姦、盗みをはじめとする凶悪犯罪がひどく発生し、社会不安が高まっている」「ある者たちは党と行政機関の職員や安全員(警察官)と政治警察(保衛部員)に対して刃物で刺し、殴打し、殺してしまう行為をしている」

安全員と政治警察が襲われる背景には、彼らに対する配給が大幅に減って、それを補うため市場などで取り締まりと称して人民から食糧などを没収している実情がある。それで多数の人民から恨みを買っているのである。

体制崩壊の危機感も明記

このままでは体制の危機が来るという危機感も明記されている。

「もし、我々が反社会主義、非社会主義との非妥協的な闘争をしなければ、我々の隊列からも、人民という仮面をかぶって党と制度に公然と反対した東ヨーロッパの社会主義背信者たちのような革命の敵が出てくるかもしれない」

以上のような内部文書の記述からも、北朝鮮に対する制裁は確実に効果を上げていることがわかる。この効果をどのようにして拉致被害者の救出に結びつけるのかが、岸田文雄政権の課題だ。