米国の利上げが本格化した。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は5月4日に大幅利上げに踏み切ったが、年内は来月以降5回に分けて連続追加利上げに踏み切る構えである。これにより米国の高インフレが鎮まれば、わが国を含め、世界経済の安定につながるが、中国は別だ。
習近平総書記・国家主席によるプーチン・ロシア大統領との「盟約」、無理筋の「ゼロコロナ」政策への執着は西側資本ばかりか中国の富裕層、投資家までも逃げ腰にさせている。その資本逃避を加速させるのが米金利上昇だ。
経常黒字の5割以上が海外に
中国人民銀行は市場で流通する中国国債金利(利回り)を米国よりも絶えず高めに誘導してきたが、4月以降は米国債利回り上昇のために、若干ながら中国金利水準を超える逆転が起きたままになっている。10年国債金利は各国金融市場の標準的な指標であり、その水準は企業や地方政府が発行する債券利回りを決定づける。投資家のカネは通常、より高い金利の金融資産に移動するので、中国国内で発行される債券は売られ、ドル建て債が買われることになる。
金利差逆転と同時に人民元の対ドル相場は下落する。米中金利差逆転は解消しそうにないので、元安が長期化する見通しが市場に広がるからだ。中国の金融資産や不動産に投資している中国の投資家は資産の目減りを懸念する。中国当局は厳しい資本流出規制をかけているが、党幹部一族を含む既得権益層はその監視網をかい潜って元建て資産を一斉に売って、海外に資産を移す。これらのカネは当局に把握されないので、国際収支統計上は「誤差脱漏」に区分けされる。
「誤差」どころか、その規模は2015年に急増し、年間2000億ドルを超え、16年から18年までは貿易収支黒字など経常収支黒字を上回った。15年夏からは、中国人民銀行が人民元の切り下げに踏み切ったことがきっかけで資本逃避が急増していた。FRBは同年12月にインフレ抑制のために政策金利引き上げに転じ、中国の資本逃避膨張を助長する要因になった。慌てた中国人民銀行首脳は当時のオバマ政権に窮状を伝え、イエレンFRB議長(現財務長官)は国際金融不安を恐れて追加利上げを1年間留保する配慮を見せた。
以来、習政権は資本逃避を厳しく取り締まっているが、それでも21年の誤差脱漏は1674億ドルに上り、経常収支黒字の5割以上相当分が海外に消えていることになる。
加速する対中証券投資引き揚げ
習政権が資本逃避を警戒するのは、中国の通貨金融制度が外貨準備に依存することからくる脆弱な構造になっているからだ。人民銀行は市中銀行から買い上げる外貨に応じて元資金を発行している。資本逃避に伴って売られる人民元を買い支えるために、虎の子の外準を取り崩す羽目になる。すると、経済成長に欠かせない元資金の追加発行が大きく制約される。
習政権は他方では、拡大中華経済圏構想「一帯一路」など、対外投資を増やしている。巨額の資本逃避が続く以上、外貨を使う対外膨張策も推進できなくなる。そこで習政権は外国からの対中証券投資を呼び込み、外貨不足を補ってきた。だが、今や海外の投資家は対中証券投資の引き揚げを加速させている。西側の対ロシア金融制裁に同調しない中国に投融資すると、米国から2次制裁を食らう恐れがある。習政権のゼロコロナ政策で不合理な都市封鎖は市民生活を混乱させ、外資系企業のビジネスを痛めつける。ワシントンの国際金融協会によれば、3月以降、外国投資家の中国債券売りはかつてない規模に達している。
そこに米利上げが追い討ちをかける。資本逃避はさらに増え続け、習政権の国内経済運営を困難にさせる。不動産開発の落ち込みやコロナウイルスによる上海などの都市封鎖長期化などに伴い、減速する景気のてこ入れに必要な財政措置や金融緩和は最小限にとどめるしかない状況だ。
日本は脱中国市場依存進めよ
米利上げについて、日本国内では「悪い円安」をもたらすといったネガティブな見方が後を絶たないが、国際ルールを無視する習政権の増長を抑制する強力な武器となる。岸田文雄政権は企業の脱中国市場依存を進め、円安で有利になる国内生産に回帰させればよいだけだ。
第134回 中国のゼロコロナ政策
中国のゼロコロナ政策は上海を都市封鎖。秋の共産党大会に向けゼロコロナへ邁進するもその成果は上がらない。PCR検査で利権発生が背景という噂も。市民の疑心暗鬼や資本逃避が進む。