ロシアのウクライナ侵略や、最近の中国の海洋進出に関して「認知戦」と言う新しい概念が出回っている。認知戦とは、偽情報により相手の認知を誤った方向に導き、判断を狂わせる戦いの手法であるが、別に目新しい概念ではない。
2500年前の孫子の時代に、すでに「兵は詭道(騙す事)なり」として、その実例を「能なるもこれに不能を示し (能力があっても能力がないふりをし)」「用なるもこれに不用を示し(用いているのに用いていないかのように見せかける)」「近くともこれに遠きを示し」の3つの実例を示している。これらを最近の露中が行なっている事例で説明したいと思う。
食糧危機はウクライナのせい?
ロシアのラブロフ外相は8日、ウクライナからの穀物輸出が滞っている問題に触れ、訪問先のトルコで「食糧危機はウクライナが敷設した機雷の為」と述べた。3日にもプーチン大統領は国営テレビでのインタビューで「ウクライナが黒海の機雷を除去すれば安全な航行を保証する」と述べている。
機雷敷設には防御目的と攻勢的使用とがある。ウクライナが敷設した機雷はロシア軍がオデッサ等からウクライナ領土に上陸侵攻することを防ぐ目的なので防御的である。これに対してロシアの黒海における機雷敷設は、ウクライナを海上封鎖するためであり、攻勢的使用である。
仮にプーチン氏の提案に沿ってウクライナが防御的機雷を除去したとすれば、大阪城冬の陣で徳川側が外堀を埋め立てたのと同様、将来の敵の上陸戦を有利にすることになる。ロシアは攻勢的機雷敷設を「用いている」にも拘らず、あたかも「用いていない」かのように世界を誤った認知に陥らせ、悪いのはウクライナ側だと責任転嫁しようとしている。
中国も南シナ海埋め立てで嘘
昨今の太平洋諸国への王毅外相訪問や、中国によるカンボジアのリアム海軍基地への接近を観察していると、「民生利用」としながら、実際は海警のような公船や軍艦の補給基地として使用する狙いであることは明らかだ。アフリカのジブチも当初は民生用としながら結局は強固な軍事基地にした。南シナ海の埋立ても習近平国家主席は「軍事利用はしない」と国際的に「不能」を約束しながら、実際には軍事的な「能」力を蓄えるに至った。パキスタンのグアダル港も同様である。
孫子は、これに引き続き「利にしてこれを誘い(利益をチラつかせて相手を誘惑し)、乱にしてこれを取り」と説いて、債務の罠によってスリランカ政府からハンバントタ港の99年の租借権を得ている。
上記「孫子」の一節は、南京にある人民解放軍指揮学院の図書館に額にして掲載されている(写真下)、人民解放軍の幹部はこの額を見ながら「認知戦」を習得しているのである。