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国基研ろんだん

2022.06.07 (火) 印刷する

ウクライナ戦争に日本は覚醒せよ 岩田清文(元陸上幕僚長)

ロシアのウクライナ侵攻以前に、それが全面軍事侵攻になると認識していたのは、事前に情報を掴んでいた米国とウクライナの当局者くらいであろう。軍事専門家を含め、ほとんどの者は、東部ドンバス地域への侵攻はあっても、まさか首都キーウまでとは思っていなかっただろうし、そしてまた戦闘がここまで長期化するとは想像もしていなかったであろう。

「力には力」の本質が明白に

人々を、半世紀以上、過去に引き戻したこの戦争は、大規模軍事衝突はもう起こらないだろうという時代認識に衝撃を与えた。外交努力も経済制裁も、そして米国、ウクライナによる巧みな情報戦も、この戦争を抑止することはできなかった。結局は力でしか戦争を抑止できない、「力には力」という本質が明白となった。

今もロシア軍の作戦を指揮しているゲラシモフ参謀総長は、2013年に論文を公表し、非軍事と軍事の境界が曖昧なハイブリッド戦においては、非軍事4、軍事力1の割合が最も効果的だと指摘している。確かに、それは2014年のクリミア侵攻では証明された。しかし今回の侵攻では、その割合が逆転して軍事力が主体となっている。

プーチン大統領も、2月24日、モスクワでの財界関係者との会合で「必要に迫られた措置だ。こうする以外になかった」と軍事侵攻を正当化し、「別の方法で対応するのが不可能なほど安全保障上のリスクが生まれていた。全ての試みが無に帰した」「国家が存続できるか分からないほどのリスクが生じる恐れがあったからだ」と強調した。

国家間の関係を左右する最大の力としての軍事力の重要性は否定できない。だが問題視すべきは、今回その軍事力を行使し、暴挙に打って出たのは他でもない、国連安全保障理事会の常任理事国であり、核大国のロシアであるということだ。

改めて突きつけた国連の限界

ウクライナ戦争を機に、世界は改めて「国連が機能しない」という現実を直視することになった。この戦争に区切りがついた段階で、安保理の改革は必ず実現しなければならないし、その際は、ロシアを常任理事国から外すことは最低限必要であろう。

日本国憲法は、この国連が機能する理想の世界を前提にしたのだろうか。その前文において、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあるが、果たして世界が、そのような環境に一度でもあったであろうか。ましてや国の安全と生存を他国に委ねる他力本願の姿勢が国家存立の基本的条件を定めた根本法にあっていいものか。

ウクライナ戦争の現実を直視し、自国の安全と生存は自らが守るとの当然の認識に立ち、憲法第9条の解釈の曖昧性から脱却して、自国防衛のために必要な軍隊を保持することを明確にすべきである。

 

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