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2022.06.14 (火) 印刷する

豪哨戒機へのチャフ発射は一線を越えている 黒澤聖二(国基研事務局長)

オーストラリアのマールズ国防相は6月5日、南シナ海の上空で5月26日、中国軍機が豪哨戒機に接近し、レーダー攪乱用のアルミ箔を含む「チャフ」を放出する危険な行動に出たとする非難声明を発表した。2月にも豪州北方のアラフラ海で中国海軍艦艇が豪哨戒機にレーザー照射をする無謀な行為があったばかりだ。また、4月から5月にかけ東シナ海上空でも中国軍機がカナダの哨戒機に繰り返し異常接近したとも報告されている。中国軍による危険行為が常態化しつつある。

エンジン停止もある危険な行為

マールズ国防相の発表によると、豪哨戒機P-8は公海上空を哨戒任務中で、これに対して中国戦闘機J-16が接近し、チャフとともに、赤外線センサーを欺く「フレア」も放出し、金属片が豪軍機のエンジンに吸い込まれたという。

かつて哨戒機搭乗員であった筆者は、この報道に驚きを禁じ得なかった。これが如何に危険な行為だったのかは、現場の搭乗員でなくとも理解できる。当然の非難声明と言える。

他方、中国国防省は6月7日の報道官談話で、豪哨戒機が西沙諸島付近の領空に接近したためだと豪側を非難した。つまり領空外であったことを認めている。場所は公海上空、時は平時であり、中国側の反論には強制力行使の根拠がない。

チャフもフレアも軍用機が敵ミサイルや砲撃から防御するための手段であり、平時において威嚇に使用する例はこれまで寡聞にして知らない。これだけでも十分に敵対的なのだが、対空兵器を装備しない哨戒機はいわゆる丸腰状態で、これに対する一方的な行為は、一線を越えたとしか言いようがない。

P-8哨戒機のエンジンはターボファンで、金属片を吸い込むとタービンブレードが損傷しエンジンが停止する危険がある。したがって、チャフが散布されたら必然的に回避動作が必要になるのだが、それもできないほど近くの前方から撒かれたことが容易に想像できる。

力しか通用しない相手には力で

通常このような近接運動や妨害行為は、偶発的な衝突を惹起する危険な行為と認識される。そのような行為を防止するため、域内関係国の軍隊間で海上衝突回避規範(CUES)が2014年に定められた。その中に、避けるべき行為として火器管制レーダーの照射や模擬攻撃なども規定されており、それは航空機にも適用される。

法的拘束力こそないが、合意は合意である。その合意には日米韓豪加をはじめ中国も参加している。それにも拘わらず、規範の目的を蔑ろにする中国軍機の行動は、マナー違反ではすまない一触即発の危険行為の誹りを免れない。

それでは何ゆえ中国は、常識外れの威圧的行為を繰り返すのか。想像の域は出ないが、暴力団が堅気を脅す見せしめ的な理由ではないか。そう考えれば暴力的で常軌を逸した行為を繰り返すことの説明はつく。国際社会に暴力団対策法はないし刑務所もない。既存の国際法で紳士的に対処できる可能性は限りなく低い。

力には力が必要なことはロシアによるウクライナ侵略で明白になった。今後、南シナ海などの哨戒飛行には、戦闘機の護衛を付けるなど、力で押し返す必要も出てくるだろう。域内関係国は結束して力を示す以外、約束事を平気で反故にする無法国家・中国を食い止める手立てはないと心得るべきだ。