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2022.07.19 (火) 印刷する

拉致問題に取り組んだ安倍元首相 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授)

安倍晋三元首相が暗殺されたことを受けて、北朝鮮拉致被害者の「家族会」と「救う会」は7月8日、連名で声明を出し、「拉致というテロと戦ってきた安倍総理がテロに遭うという事態がなぜ起きるのか。悔しくて悲しくて言葉にならない」と突然の死を悔やんだ。そして、「安倍総理が主導した北朝鮮への最強度の制裁は今、効果を上げている。金正恩政権は存亡の危機から脱出するために拉致問題での日本との交渉を真剣に検討しているという情報がある。拉致被害者救出はこれからが正念場を迎える。そのときに、安倍総理がいらっしゃらないことは残念だ。しかし、私たちはここでくじけることは出来ない。全ての拉致被害者の即時一括帰国実現のため戦い続ける。安倍総理、これまで本当にありがとうございました」と追悼した。

被害者家族に寄り添った25年

家族会と救う会は平成9年に運動を始めて25年になるが、この間ずっと安倍氏と共に歩んできた。平成14年の小泉純一郎首相(当時)訪朝で北朝鮮が拉致を認めるまでは、ほとんど孤立無援の中、拉致は事実だということを内外に発信してきた。その時から、安倍氏は自民党内の野中広務氏ら主流派から様々な圧力を受けながら私たちのそばにいた。

平成16年、北朝鮮が横田めぐみさんの死亡の証拠として高温で火葬した人骨を出してきた時、小泉政権は日朝国交正常化を急いでいた。だが、帝京大学の吉井富夫講師の最新技術による鑑定でその骨がめぐみさんのものではないことが判明した後、安倍氏は「今後は死亡の証拠を求めてはならない。そうすれば生きている被害者の腕などを切って本物の遺骨を作る危険性がある」と語った。さらに、平成18年に第1次安倍政権を発足させるや、「拉致問題の解決なしに日朝国交正常化はあり得ない」「被害者が生存しているとの前提に立ち、帰国を求める」という政府方針を決めた。これも私たちがその時要求していた通りだった。

対北圧力で帰国実現迫る戦略だった

平成24年、第2次安倍政権が発足するや、安倍氏は最優先課題として拉致問題に取り組んだ。安倍氏は折に触れて時間を割いて家族会と救う会に現状を説明してくれた。ある時には、陪席していた外務省局長ら役人の大部分を退席させ(政府拉致対策本部事務局長だけが部屋に残ることを許された)、私を含む家族会、救う会の役員だけに救出戦略を熱く語った。それを聞きながら、安倍氏と私の考え方がほぼ同じであることに驚くとともに、強い感動を覚えた。経済制裁と米国などの国際圧力(軍事圧力も含む)によって北朝鮮の政権を危機に追い込み、北朝鮮最高指導者を日朝首脳会談の場に引き出し、平成14年に一方的に死亡と宣告した横田めぐみさんら8人を含む全被害者の一括帰国を迫るという戦略だ。

安倍氏追悼声明に書いたように、われわれは北朝鮮を追い込むことに成功した。これからが最後の勝負の時だ。岸田文雄首相も安倍氏がやり残した課題として拉致問題を最初に挙げた。安倍氏が播いた被害者救出への種を必ず実らせると私は決意している。(了)