公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2022.07.21 (木) 印刷する

実利優先、したたかなサウジ外交 森戸幸次(静岡産業大学名誉教授)

「残忍な皇太子を認知」

米国のバイデン大統領が就任後、初めて中東を訪問、最大のハイライトのサウジアラビアでは事実上の最高指導者ムハンマド皇太子と直接会談するなど、4年前のジャーナリスト殺害事件で悪化していた両国関係を修復した。ロシアのウクライナ侵攻後、国際社会は激変し、米国が主導する西側陣営と中国、ロシア、イランとの角逐が強まっており、米国としては、「中東域内の安全保障の空白を彼らに埋めさせることはない」(バイデン大統領)ことを示して、中東への「再関与」に舵を切った。だが、「人権重視の大統領の立場と引き換えに残忍なサウジ指導者を認知した」(米国の元中東外交官)との辛辣な批判も聞かれ、果たして、ウクライナ戦争でロシアに対抗しながらエネルギー危機を乗り切り、11月の中間選挙を経て2024年の再選を期すバイデン大統領の思惑が奏功するかどうかは、予断を許さない。

対イスラエル国交樹立も視野に

世界第3位の石油生産量を誇るアラブの盟主サウジにとって、最大の安全保障上の脅威は域内大国のイランだが、同国の核兵器開発・保有を絶対阻止する立場から、イスラエルとの関係正常化をアラブ首長国連邦(UEA)と共に主導しているのがムハンマド皇太子(36歳)だ。イランに対抗する湾岸安保の地域協力の枠組みにイスラエルを関与させて対イラン包囲網の構築に動いているが、米国の仲介で2020年9月、UAEとバーレーンがイスラエルと国交を樹立(アブラハム合意)したものの、サウジは、2002年にアブダラ前国王が提唱した中東和平構想「2国家共存」案を提唱して、パレスチナ国家が樹立されるまでは国交に応じない姿勢を堅持、ムハンマド皇太子の父サルマン現国王(86歳)もこれを踏襲している。バイデン大統領としては、任期内に両国の国交樹立を実現させたい思惑だが、このためには、トランプ政権下で死に体になっているパレスチナ和平を蘇らせる必要がある。

しぼむ中東和平の機運

バイデン大統領は7月15日、パレスチナ自治政府のアッバス議長に3億ドルの支援を表明、「2国家共存」がパレスチナ問題解決の最善の方法との持論を展開したが、「今は和平の機運は熟していない」とも語り、パレスチナ人の期待を裏切った形だ。バイデン大統領から認知されてなんとか「復権」したムハンマド皇太子がスムーズに王位を継承する事態になれば、「パレスチナ」を封印したまま、対イラン封じ込めを優先して「アブラハム合意」に加わる可能性は高まるだろう。

「中東再関与」の具体化は?

ロシアのウクライナ侵攻を機に21世紀の世界秩序の再編が急ピッチで進む中、サウジをはじめ多くのアラブ諸国はウクライナ戦争の帰趨を見つめながら、米欧の対ロシア制裁に距離を置きつつロシア・中国との関係をエネルギー協力も含めて維持するなど、したたかな「実利」外交を展開している。今回のイスラエル・サウジ訪問を通して「中東再関与」に方向転換したバイデン大統領が、サウジなどアラブ諸国を米欧陣営に取り込むために、これからどのように中東域内での信頼を回復し、安定に寄与していくのか、「ウクライナ」対応に追われている中で、まだ明確な道筋は見えない。(了)