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2022.08.22 (月) 印刷する

学術会議は学問の中立性を保て 奈良林直(北海道大学名誉教授)

「日本学術会議こそ学問の自由を守れ」と題した2020年10月5日付の「今週の直言」は大きな反響を呼んだ。学術会議は大学での軍事研究に反対して2016年9月に設立された「軍学共同反対連絡会」に牛耳られている。憲法9条の改正に反対する「九条科学者の会」の呼び掛け人の1人で名古屋大学名誉教授の池内了氏らが連絡会の共同代表を務める。船底に空気泡を注入すると船の推進抵抗が削減されるという北海道大学のM教授の優れた研究が防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」の助成対象になったことを問題視し、北大総長との面会を執ように求め、最終的に助成を辞退させた。

左翼組織の圧力

M教授の研究は、自衛隊艦船の推進抵抗を低減するだけでなく、民間の貨物船、タンカー、フェリーなどあらゆる船舶の燃費を10%削減できるものだ。防衛装備庁の助成制度には10倍を超える応募があり、採択された9件のうち4件が大学からの応募だった。北大以外では、学術会議の大西隆会長(当時)が学長を務める豊橋技術科学大学の研究が採択された。

これをきっかけに、軍学共同反対連絡会は学術会議に圧力をかけていく。連絡会は、全国の大学や学術会議会員に対し、大学での軍事研究禁止を要請した。学術会議は2016年6月に「安全保障と学術に関する検討委員会」を発足させ、軍事研究を否定した過去の声明見直しの是非をめぐって議論を開始した。この議論に連絡会メンバーが加わり、同年11月の第6回会合では池内氏が意見を表明し、防衛のための研究の必要性を主張した大西会長の議論も否定した。学術会議はついに2017年3月27日、軍事研究反対を明確にした「軍事的安全保障研究に関する声明」を出した。学術会議の学問の中立性はここに失われた。

この声明を錦の御旗にして、連絡会と他の幾つかの左翼組織が合同で、全国の50を超える大学や研究機関の長に対して、防衛省の公募研究を中止するように圧力をかけた。つまり学術会議の声明が全国の大学の学問の自由を奪う実働部隊と連動し、NHKや朝日新聞、北海道新聞、しんぶん赤旗などと一緒になって圧力をかけたのである。

一方、左傾化が進んだ学術会議は、2015年に中国科学技術協会との間で相互協力の覚書を交わした。同協会には北京航空航天大学やハルピン工業大学の研究者も参加している。これらの大学は、安全保障輸出貿易管理令に関連する大量殺戮兵器の研究機関として経済産業省のリストに掲載されている。学術会議はこうした中国の軍事研究組織との交流を継続しているのだ。学術会議は、法律で設置され、年間10億円もの税金で運営されている。会員は特別職国家公務員だ。

科学技術の国防活用は不可避

ロシア軍のウクライナ侵攻と中国の台湾に対する軍事的威嚇により、世界情勢が激変している。わが国の国土と国民、豊かな暮らしを守るには、科学技術の発展を国防に活用するしかない。軍学共同反対連絡会を構成する九条科学者の会などの主張は、わが国の国防力を弱め、わが国に核ミサイルを向けている国々を有利にしているだけだ。憲法改正反対、日米安保条約反対、在沖縄米軍基地反対、自衛隊の防衛力強化反対の4点セットを掲げ、先の参院選挙で大きく票を減らした政党の主張と一致している。

学術会議は、特定の政党のためにあるのではなく、わが国の国土と国民、豊かな暮らしと命を守る崇高な使命を科学技術の進歩によって推進すべき国家組織なのだ。その原点に立ち返って、軍学共同反対連絡会などの影響を受けない、学問の中立性を保つ組織に一新する必要がある。

今年1月13日、学術会議の梶田隆章会長は首相官邸を訪れ、2020年に菅義偉首相(当時)が拒否した会員候補6人の任命を改めて要請した。これに対して岸田文雄首相は、当時の任命権者である菅首相の判断で任命拒否問題は決着したとの見解を示し、今後も学術会議と対話を重ねていく姿勢を示した。これと並行して政府の総合科学技術・イノベーション会議の有識者議員懇談会が昨年21年5月から学術会議の設置形態や会員の選考方法などの検討を続けている。

必要な民営化

人工知能(AI)や量子コンピューター、半導体、ロボット、ドローン、超伝導など多くの先端技術は、軍事と民生の両方に利用できる「デュアルユース」と呼ばれる最先端技術である。今年4月26日の参院内閣委員会で、学術会議の三上明輝事務局長は自民党の有村治子議員の質問に対し、「デュアルユースに関わる研究のような安全保障に資する研究を一律に禁止するという趣旨のものではございません。大学の対応状況などについて現状の把握を行い、一覧表など分かりやすい形で公表できるように取り組んでまいりたい」と答弁した。さらに、梶田会長は7月25日付で、軍民両用技術の研究を容認する見解を記載した文書を小林鷹之科学技術担当相(当時)に提出し、学術会議のホームページでも公表した。

今後、学術会議に必要なのは、左翼組織からの圧力を受けない中立性の確保と、会員が会費を払って自ら運営する民営化であろう。民営化は多くの学会が行っている。会員の任命も学会の活動として自ら決めればよいのだ。(了)
 
 

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