検事出身の尹錫悦大統領の経験不足が露呈し、韓国外交が多くの批判にさらされている。尹大統領はエリザベス英女王の国葬参列、国連総会での演説などのために9月18日から24日まで英国、米国、カナダを歴訪した。ところが、その過程で大統領本人とスタッフの未熟さを示す事態が続出し、内外からひんしゅくを買った。
秘書官が「日王」と呼ぶ非礼
英国では、到着直後に予定されていたエリザベス女王の棺へのあいさつができなかった。渋滞に巻き込まれて新国王主催のレセプションに遅れそうになり、棺へのあいさつを急遽取りやめたという。
その上、レセプションの状況を同行記者に伝えた大統領室の金恩慧広報担当首席秘書官が「徳仁日王、スペインのフィリップ2世国王夫妻ら、外国王室の多数の方々が(尹大統領と)この弔問を共に行いました」と発言した。映像で確認できる。
これは見過ごすことが出来ない発言だ。なぜなら、昭和天皇の崩御の頃から韓国のマスコミは従来使っていた「日皇」という表現を「日王」に改めたが、韓国政府はこれまで「天皇」という言葉を使い続けていた。たとえば、反日を煽動した文在寅政権下でも2019年4月30日に韓国外交省は、「文在寅大統領が4月30日に退位する明仁天皇に謝意を表明する書簡を送った」と発表している。
尹大統領は繰り返し文政権時代に悪化した日韓関係を改善したいと語っている。しかし、現政権として文在寅政権も維持していた「天皇」という言葉を使うことをやめ、韓国の反日世論に迎合して「日王」を公式用語としたのなら、言っていることとやっていることが正反対だと言わざるを得ない。
ニュースキャスター出身の金秘書官が従来の韓国政府の公式用語をわきまえず、記者時代の口癖通り「日王」という用語を使った可能性が大きい。それならすぐ訂正し謝罪しなければならない。我が国政府は韓国政府に「日王」という用語使用に抗議するとともに、今回の「日王」使用が秘書官のミスなのか、尹政権の方針なのかを確かめるべきだ。それなしに日韓関係改善などあり得ない。
首脳会談発表のフライング
また、日程調整の錯誤があった。出発3日前の15日に大統領室はニューヨークで米国、日本と首脳会談を開催すると一方的に発表した。大統領室幹部は日韓両国が首脳会談に「快く合意した」と韓国メディアに語った。
しかし、その時点で日韓、米韓首脳会談開催の合意はなされていなかった。我が国政府は、同時発表すべき首脳会談開催を一方的に発表したのは外交常識に反すると強く抗議したという。韓国側が岸田文雄首相と会うことを強力に求めたので、岸田首相が国際会議を主催したビルを尹大統領が訪れ、会議終了後、「懇談」する機会が設けられ、今後も懸案解決のため協議を続けることなど原則的な話が交わされた。
また、米韓首脳会談は全く開催されず、バイデン大統領が主催する国際会議に尹大統領が出席し、会議終了後、出席者と挨拶を交わすバイデン大統領に尹大統領が近づき、48秒立ち話をしただけだった。
大統領の「ガキ」発言にも批判
そして、尹大統領はバイデン大統領との立ち話終了後、会議場を出て行く場面で、韓国のテレビ局のカメラが回っている中、失言をした。すぐ韓国テレビが「国会、このセキどもが承認してくれなければバイデンは恥をかく」(「セキ」は悪口で使う「子ども」という意味の言葉で、あえて翻訳すれば「ガキ」となる)とする字幕を付けて大きく報じ、米議会とバイデン大統領を批判したとして野党と左派メディアが尹大統領の外交上の惨事だと批判の声を上げた。
当初、大統領室は、私的な会話を報道することは不適切という姿勢だったが、仏AFP通信がそれを英語で配信し国際ニュースになった後、実際には「国会、このセキどもが承認してくれず放り出されれば恥をかく」と言ったのであって、韓国の国会が尹大統領の約束した途上国支援1億ドルを承認してくれなければ恥をかくという意味だと弁明した。
どちらにしても、尹大統領が記者団の前で「セキども」という悪口の言葉を使ったことは間違いない。検事時代は仲間同士でそのような言葉使いをよくしていたのだろうが、国家元首としてふさわしい発言でないことは確かだ。30%台まで回復していた大統領支持率はこの外遊中、5ポイント下落して28%になった。(了)