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2022.10.11 (火) 印刷する

欧州の出来事を他山の石に 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

ロシアのウクライナ侵略は、かつて自国の領土だった土地を、口実をつけて武力で奪うという現象だ。10月5日、プーチン・ロシア大統領は、ウクライナの4州をロシア領とし、ロシア語を公用語として、来年から住民に徴兵を課すとの大統領令に署名した。

2013年5月8日の中国共産党機関紙『人民日報』は「沖縄の主権は未解決」との記事を掲載した。また2016年8月12日にも、人民日報系の環球時報(電子版)は「沖縄ではなく(中国の冊封時代の呼称である)琉球と呼ぶべきだ」との記事を掲載しており、中国が沖縄に領土的野心を有していることは明らかである。昨年7月1日、習近平中国国家主席は事実上の「失地回復宣言」を行ったが、失地の中には我が国の沖縄が含まれていると考えた方が良い。

沖縄が中国領になったら徴兵制

仮に沖縄が中国の領土になれば、中国では18~22歳の若者に約2年間の兵役義務を課しているので、沖縄県民は徴兵される。今回、ロシアが併合したウクライナ4州の住民は徴兵により、これまで祖国であったウクライナと干戈かんかを交えることになる。 

1950~51年に中国がチベットに軍事侵攻した際、尖兵として使われたのはモンゴル人であったことを想起すれば、中国の対日米同盟戦に沖縄県民は中国の尖兵として使われる可能性が高い。加えて中国語が沖縄の公用語となる。

中国の軍事侵略を抑止しているのが在沖縄米軍であるにもかかわらず、現沖縄県知事の玉城デニー氏は、米軍基地を減らすよう主張。さらに中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に沖縄を活用してほしいと2019年の訪中時に胡春華副首相に要請した。沖縄が中国に併合されたらどうなるかを考えているのだろうか。

海底の安全保障は十分か

一方、9月末、ロシアから欧州に天然ガスを送る海底パイプラインがバルト海で破壊され、ロシアと欧米の双方が、互いに相手側が行ったとの非難を応酬している。米CNNは同海域にロシアの補助艦や潜水艦がいたと報じ、またフランスの報道では、この破壊は水中ドローンか潜水員によって行われた可能性が高いとされている。我が国にも、ロシアのサハリンから天然ガスを供給する海底パイプラインがあり、何者かによって破壊工作が行われた場合、エネルギー供給に大打撃を受ける。

さらに海底には、我が国と外国を結ぶインターネット回線の99%があり、その場所は、関東は房総半島沖に、関西は志摩半島沖に集中しており、少し沖合に出れば丸裸の海底ケーブルが視認される。日本も海底設備の安全保障に意を用いるべきではなかろうか。

最後に、ロシアが部分動員を決定した9月末から徴兵を逃れるロシア人が隣国に脱出している。我が国もロシアの隣国だ。1年程前に、北方領土の国後島から北海道の標津町に泳いで渡ったロシア人がいたが、ロシア極東地域から徴兵を逃れて我が国に脱出してくるロシア人にどう対処すべきかを考えなくて良いのか。政治難民とスパイとを判別するセキュリティー・クリアランスやスパイ防止法の制定も視野に入れる必要があろう。

欧州で起きている事象を他山の石として、我が国も安全保障上の対策を講じておく必要がある。(了)
 
 

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徴兵やロシア語化も。日本も他人事ではない。中国の国恥図では南西諸島は中国領。仮に沖縄が中国領になると、沖縄の若者が前線に送られる。北海のパイプライン爆破も大いに気になる。