公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.12.07 (水) 印刷する

尖閣海洋調査に不可欠な海保の強化 山田吉彦(東海大学教授)

11月25日、尖閣諸島の大正島周辺の領海内に中国海警局の2隻の警備船(海警船)が侵入した。うち1隻は、76ミリ砲と見られる砲を搭載していた。これまでの海警船の搭載砲は40ミリまでであったが、軍艦並みの装備に代わっている。76ミリ砲の最大射程はおよそ16キロ。しかし、我が国の海上保安庁の最大級巡視船「あきつき」の装備は40ミリ機銃であり、その最大射程は約5キロと能力に著しい隔たりがある。当然、警備戦術の変更を余儀なくされるが、現在の日本の海上保安庁の巡視船の装備では、対応不能であろう。地元の漁船にとっても脅威となっている。

海上保安庁法25条では、「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定されている。既に、中国海警は軍隊同様の装備を持ち、中国共産党中央軍事委員会の指示があれば、海軍と共に行動することになっている。しかし、海上保安庁法25条がある限り、海保が準軍事機関となった中国海警に対応できる軍隊並みの装備を持つことも、対処する訓練をすることも許されない。海上保安庁法25条が足枷かせとなり、海上保安官に危険な任務が与えられているのである。中国海警に対処するには、海保も法改正、組織改編など大きく変わらなければならないだろう。

今年度中に石垣市が2回目の調査

尖閣諸島を行政区内に持つ石垣市は、今年1月に尖閣諸島海洋環境調査を実施した。尖閣諸島に関わる行政機関の調査としては、2012年に東京都が石原慎太郎知事の指示により行って以来であった。石垣市は、地元自治体として尖閣諸島の管理活動の実施を国に要望してきたが、政府は上陸しての調査を許可していない。そこで、尖閣諸島周辺海域の海洋調査に絞り、政府と調整を進めてきた。

石垣市としては、引き続き上陸許可を求めているが、当面、海洋調査を継続する予定である。10月の市議会では、今年度中に2回目の尖閣諸島周辺海域の調査委託費を盛り込んだ補正予算案が賛成多数で可決されている。現在、年度内に再び海洋調査を行う予定で準備を進めている。原資は、尖閣諸島での石垣市の活動を支援したいと、全国の人が寄せた「ふるさと納税」による資金が充てられるようだ。

石垣市の海洋調査は、海洋環境保全のための調査であり、水産資源を持続的に利用するための基礎となる。この調査が安全に行われることは、尖閣諸島における日本の施政権を示すために極めて重要である。

中国の妨害排除が日本の施政権を示す

1月に石垣市が調査を実施した際は、2隻の中国海警船が姿を見せたが、海上保安庁の厳格な警備体制により、調査を妨害することもできなかった。2回目の調査でも、中国海警局が妨害を試みる可能性がある。海保が石垣市の海洋調査を中国海警の妨害から守り、その様子をメディアにより多くの人々に伝えることが、尖閣諸島における日本の施政権を明確に示すことになる。

準軍事組織化した中国海警に対抗するためには、海上保安庁と自衛隊の綿密な協力関係も必要である。日本が尖閣諸島をしっかりと守り、東シナ海の安全保障体制を確固たるものにすることは、中国の台湾侵略に対しても歯止めとなることだろう。(了)