公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2023.02.06 (月) 印刷する

戦車供与はウクライナ反撃の切り札になるか 岩田清文(元陸上幕僚長)

ロシアのウクライナ侵略開始から間もなく1年。ドイツ、米国はじめ北大西洋条約機構(NATO)各国は、それまで慎重であったウクライナ向け戦車供与にかじを切った。ウクライナのオメリチェンコ駐仏大使は、これまでに321両が約束されたと述べている(仏テレビ局、1月27日)。ゼレンスキー大統領は「300~500両の戦車が必要だ」と述べており(英テレビ局、同日)、今後も追加される可能性がある。

昨年9月以降、ウクライナが反転攻勢に出て、北東部ハリキウ、および南部へルソンにおいて領土の一部を奪回したが、その後は戦線が膠着している。これを打開してウクライナ軍がさらに領土を奪回できるかが注目されているが、その一つのカギを握るのが戦車供与だ。

供与される戦車の効果は

これまでに発表された戦車の種類、数と支援国は、レオパルド2が32両(ドイツ、ポーランド、カナダ)、M1エイブラムスが31両(米国)、チャレンジャー2が14両(英国)、旧ソ連製のT72が110両(チェコ、モロッコ)、PT91(T72の改良型)30両を含む60両(ポーランド)の合計247両である。

戦車は、固い装甲防護力により敵の攻撃を防ぎながら、不整地や障害物を乗り越えて有利な場所に進出し、強力な火力により敵戦車を撃破できるという3拍子揃った兵器だ。攻撃においてその特性が最も発揮できる兵器とされており、ウクライナのレズニコフ国防相も2月3日、供与される戦車は、ロシアの防衛線突破に向けたウクライナの反攻において「鉄拳」の役割を果たすだろうと述べている。この言葉のとおり、膠着した戦線を打開するため、突破する地域およびその時期を探りながら、供与される戦車の「戦力化」を急ぐ考えだろう。

しかしながら、期待通りの効果を発揮するには課題も多い。供与された戦車をウクライナ軍が組織化して、戦闘できるレベルまで達するには、時間がかかるという点だ。確かに、ポーランドのブワシュチャク国防相は2月3日、「ポーランドは西側諸国が供与した戦車の使用に向けたウクライナ兵の訓練を支援しており、訓練の完了は「数日や数カ月ではなく数週間」の問題としている。仮に同国防相の言う「数週間」に無理やり当てはめるとすると、種類の違う戦車1車両ごとの乗員(車長、砲手、操縦手、装填手)訓練に2週間、1個小隊4両の小隊訓練に2週間、1個中隊14両(3個小隊+中隊本部2両)の中隊訓練に1週間、1個戦車大隊31両(2個戦車中隊+大隊本部3両)としてのまとまった訓練や、歩兵、砲兵、工兵、対空、ドローン部隊など他の職種部隊との共同訓練に1週間といったところで、合わせて6週間、これに戦車整備、休養などを加えれば最低でも7週間は必要だろう。動員されたロシア軍の反攻作戦が3月以降と推測されている中、どちらが先に有利に攻撃を仕掛けられるか、時間との闘いとなっている。

日本がやるべきことは

日本政府は既に昨年3月以降、防弾チョッキ、鉄帽(ヘルメット)、防護マスク、防護衣、小型のドローン等を自衛隊機等により輸送し、提供してきた。加えて8月には、ウクライナ政府からの要請を踏まえ、民生車両(バン)も提供している。

戦車の戦力化に関わることは、NATO諸国が主体的に支援している状況において、ニーズはそれほど多くないだろう。それよりも、国民も闘っているウクライナの社会インフラを支え、市民生活を安定させるための支援は効果があるだろう。ひっ迫する電力確保のための電源車両や輸送車両などは、いくらあっても足りない状況と認識する。ウクライナのニーズに応えるには、日本からの積極的なアプローチが重要だ。(了)