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2023.02.27 (月) 印刷する

ウクライナ侵略に加担する中国の欺瞞 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)

ロシアによるウクライナ侵略戦争開始から1年を迎え、世界は新たな地政学的な展開を始めた。ユーラシアのど真ん中で展開する熱戦は、侵略者のロシアとこれを迎え撃つウクライナとの攻防である。しかし、同時進行しているのは、民主主義秩序に挑戦する中国と、これに対処する米国によるグレートゲームだ。仕掛けたのは、見込みのない「和平構想」を掲げつつ、ロシアへの武器売却を検討する中国である。

偽装和平案を提示

2月20日のバイデン米大統領による首都キーウへの電撃訪問は、間違いなくウクライナの士気を高め、ロシアと向かい合う東欧の前線国家を勇気づけた。それはウクライナがロシアに勝利する日まで、米国が「絶え間なく支援する」との強力なメッセージであった。同時にこの電撃訪問は、中国がウクライナ侵略戦争に加担し始めた動きと切り離せない。

その2日前の18日、中国外交のトップ、王毅共産党政治局員がミュンヘン安全保障会議で、「中国はウクライナに対する和平構想を提示する準備ができている」と述べており、バイデン大統領がこの問題でもゼレンスキー大統領と協議した可能性が高い。18日のブリンケン米国務長官と王毅氏との会談でも、中国の偵察気球問題に加え、偽りの和平案と対露武器売却をめぐり激論があったことがうかがえる。後にバイデン大統領は中国の和平案なるものについて、「ロシア以外に利益を得る者が一切いない」と述べ、拒否の姿勢を示した。

中国はロシアのウクライナ侵略を非難せず、むしろ、安価なロシア産エネルギーの供給に利益を見いだしていた。しかし、ウクライナ東部戦線の泥沼化がロシアの壊滅的な敗北に至る前に、中国として何らかの手を打つ必要に迫られたはずだ。

恐れる対米枢軸の崩壊

中国にとってロシアの敗北は、アメリカンパワーを削ぐことに共通利益を持つ対米枢軸パートナー喪失につながる。習近平政権はすでに、ロシアが敗北しないように積極関与するとの決定を下した可能性が強い。しかも、ウクライナ和平への関与は、来年1月の台湾総統選挙で親中派の勝利を導くよう「平和的アプローチの中国」を印象づける意味もある。

その第1段階の対応策が、善意の調停者としての「冷戦思考の放棄」「敵対行為の停止」「和平交渉の再開」など抽象的な12項目提案である。さらに第2段階として、ロシアに対する殺傷兵器の供与に踏み切ることを視野に入れている。ウクライナ侵略に使用するドローンや弾薬の供与を検討しているとの情報は、和平案受け入れをウクライナに促す揺さぶりにもなる。中国主導の偽装仲介が実らなければ、顕在化しつつある米欧対中露の対決の色彩が濃くなってくる。

米欧日は、好戦的なロシアを支えながら平和を呼び掛ける中国の欺瞞を成就させてはならない。日本が議長国となった主要7カ国(G7)首脳会議を核に結束し、インド太平洋情勢をにらみながらウクライナ支援を強化すべきだ。中国が「制限なし」の協力としてロシアへの軍事支援に乗り出せば、自由世界と独裁国家との戦略的な戦いは、新たな段階に入る。(了)   
 
 

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