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国基研ろんだん

2023.03.28 (火) 印刷する

スターリンの先例から読み取れる習主席の思惑 江崎道朗(評論家)

中国の習近平国家主席は3月20、21の両日、モスクワでロシアのプーチン大統領と会談した。習氏の訪ロは昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻後で初めてだ。なぜ習氏は今回「中ロは結託している」と批判されることが分かりながら敢えて訪ロに踏み切ったのか。それも2日間で10時間以上、対面で話し合ったということから、よほど重要な案件があったと考えるべきだろう。

その重要な案件とは何か。

今回の首脳会談では改めて「中ロ連携」を確認したことになっているが、問題はその「連携」の中身だ。両首脳は包括的戦略パートナー関係深化と、2030年までの経済協力発展に関する二つの共同声明に署名した。要は中ロの関係強化、特に経済協力の発展で合意したことになるが、それが何を意味するのか、さらなる情報収集と分析が必要だ。

金日成の南侵を許可したソ連の戦略

というのも、ロシアも中国も極めて戦略的な「秘密外交」を展開する国だからだ。例えば、拙著『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』(PHP新書、2019年)でも書いたが、1950年に勃発した朝鮮戦争は、その背後にスターリンの周到な戦略があった。

国共内戦に勝利した中国共産党が台湾「解放」の準備に奔走していた1949年4月、モスクワでは北朝鮮の金日成が、北朝鮮による攻撃によって南(韓国)では共産主義者たちが蜂起し、ごく短期間で容易に南を制圧できると主張し、スターリンから「朝鮮統一」の許可をもらっていた。ロシア外務省のメンバーでもあったセルゲイ・ゴンチャロフ氏らは、スターリンには、次の四つの思惑があったと分析している。

一、朝鮮半島全体を共産圏に入れることにより、ソ連の安全保障のための緩衝地帯を拡大する。

二、来るべき大戦に備えて日本攻撃の橋頭堡を確保する。

三、米中間に楔を打ち込む。

四、米軍を欧州から離れたところにくぎ付けにする。(Sergei N. Goncharov, John W. Lewis & Xue Litai, Uncertain Partners: Stalin, Mao, and the Korean War, Stanford University Press, 1993, p.152)

朝鮮戦争は、北朝鮮による半島統一だけでなく、上記四つのスターリンの思惑があったわけだ。特にチェコスロバキアやハンガリーをソ連の影響下に置くためにも、米国をアジアにくぎ付けにしたかったのだ。

米の疲弊狙い朝鮮戦争引き延ばし

1950年6月、朝鮮戦争は始まったが、北朝鮮の想定は外れ、短期間で決着しなかった。むしろ米国が軍事介入に踏み切ったことで、北朝鮮はむしろ劣勢に追い込まれた。そのため1950年10月19日、中国共産党「義勇」軍は、中朝国境の鴨緑江を越えた。これによって米軍を中心とする国連軍は押し返され、38度線で戦線は膠着状態に陥るのだが、なんとスターリンは朝鮮戦争の長期化を望んだ。

戦線が膠着した1951年6月以降、金日成は何度もスターリンに「和平をさせてくれ」と懇願した。だがスターリンは、朝鮮戦争が局地戦のまま拡大せずにだらだらと続くことを好都合だと思っていた。1951年6月5日、スターリンは毛沢東に公電で「朝鮮戦争をエスカレートさせるべきではない。長期化した戦争によって、第一に、中国軍は現代的戦争を学ぶことができる……そして第二に、米国のトルーマン政権を揺るがし、米英軍の軍事的威信を傷つけることができる」と伝えた。スターリンは、朝鮮戦争が長引くことによって米国が疲弊することを望んだ。長期化すれば、北朝鮮と中国共産党軍の被害が拡大することを承知の上で、である。

ウクライナ戦争の長期化画策か

こうした先例を踏まえるとき、今回の中ロ首脳会談をどう見るべきか。習主席はスターリンと同様に、以下のような思惑を抱いているかもしれない。

一、ウクライナをロシア圏に入れることにより、中国の安全保障のための緩衝地帯を拡大する。

二、来るべき大戦に備えて、西側に反発する諸国を取り込むとともに、ロシアのエネルギーや食糧を中国の影響下に置く。

三、戦争を長期化させることで、ロシアと欧州の関係をさらに悪化させ、ロシアが中国に背かないようにする。ただし、プーチン政権が崩壊しないように最低限の支援は行う。

四、戦争を長期化させることで欧州を疲弊させるとともに、米軍を欧州に引き付け、アジアへの兵力展開を遅らせる。

過去の歴史を踏まえて国際政治を分析しないと、相手の思惑を読み間違えることになりかねない。インテリジェンスの基本は、相手を侮ってはならないことなのだ。(了)
 
 

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第340回 中露連携の中身を注視

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