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2023.04.10 (月) 印刷する

台湾在住邦人に明確なメッセージを 江崎道朗(評論家・麗澤大学客員教授)

3月29日から4月1日まで台湾を訪問し、台湾在住の邦人、具体的には台湾の人と結婚し、台湾で仕事をしている日本の民間人と台湾有事について話をした。

考えてみれば至極当然の反応だが、「台湾有事は日本有事」という安倍晋三元首相の言葉は、台湾在住邦人の心を大きく揺さぶっていた。

放置される不安

台湾在住邦人の反応は大別して三つだった。

一つ目は、安倍氏の発言のおかげで、日本と台湾の関係がぐっと近くなったことを喜ぶ声だ。日本の政治家もマスコミもどちらかというと、米国や中国ばかりを見ていて、台湾に注目する声はあまり伝わってこない。それを寂しく思っていたこともあって、安倍氏が「台湾有事」に注目し、言及してくれたことを歓迎しているのだ。

二つ目は、とはいえ、安倍氏が言及するほど「台湾有事」は迫っているのか、という不安の声だった。確かに台湾でも軍事訓練の回数が増え、台湾海峡を脅かす中国の戦闘機の動向は不気味だ。しかし、台湾に住み、台湾で仕事をしている立場からすれば、簡単に日本に帰るわけにはいかない。台湾で会社を経営していれば、台湾人従業員の生活のことも考えないといけない。

台湾は危険だから帰国すればいいというのは簡単だが、在留邦人にとって、帰国するということは、それまでの生活拠点、生活の糧を手放すことに等しい。できるならば、このまま台湾での暮らしを続けたい。しかし、本当に危機が迫っているのなら、自分と家族の安全確保のため、台湾での仕事をやめて帰国する決断を下さないといけない。よって、本当に台湾有事は起こるのか、起こるとすればいつ頃なのか、その際、日本政府は台湾からの退避をきちんと勧告してくれるのか。帰国に際して便宜を図ってくれるのか。そんなことをあれこれと考えては悶々としているのだ。

三つ目は、台湾から退避する際に家族をどうしたらいいのか、という点だ。台湾在住邦人の多くが台湾人と結婚している。いざというときは、日本国籍を持たないパートナーと子供たちを連れて日本に帰国したいと考えているが、その際、日本政府は家族の入国を許可してくれるのか。パートナーの両親、つまり義理の親も日本に連れてくることは可能なのか。ある程度、日本で長期滞在となった場合に在留許可は出るのか。そもそもこうした問題について日本政府は台湾で相談窓口を開設するつもりはあるのか。自分と家族の安全に関わる問題について誰にどう相談したらいいのかわからずに途方に暮れている日本人が少なからず存在している。

政府の相談窓口を早急に設置せよ

こうした台湾在住邦人の不安を少しでも解消するためにも、「日本政府は、紛争に直面した在外邦人とその家族を助けるために全力を尽くす」旨のメッセージをはっきりと発するべきだ。そして、そのメッセージが口先だけではない証拠として、まずは台湾においても公的な相談窓口を早急に開設すべきなのである。(了)
 
 

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