公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.06.19 (月) 印刷する

「同性婚判決」について 髙池勝彦(国基研副理事長・弁護士)

6月8日、福岡地裁において、いはゆる同性婚についての判決があつた。これまで同種の裁判は5地裁に係属し、これで全ての判決が出揃つたことになる。

今までの判決を一覧すると次のとほり。札幌地裁:令和3年3月17日、大阪地裁:令和4年6月20日、東京地裁:令和4年11月30日、名古屋地裁:令和5年5月30日、福岡地裁:令和5年6月8日

福岡地裁を除いて、他は事件番号の年(訴訟を受け付けた年)がすべて平成31年であるので、組織的に全国で訴訟を提起したのではないか。福岡地裁は、令和元年と令和3年の2件である。令和元年も平成31年と同じ年であるから、やはり同様であると思はれる。

いづれの訴訟も、同性のカップルが婚姻届を役所(区役所、市役所など)に出したところ受け付けられなかつたので、同性婚の届出を認めない民法や戸籍法の規定が憲法違反であるとして(同性婚を認める規定を設けないことが国の立法不作為義務違反に当たるとして)、国家賠償法に基づき、国に損害賠償(慰謝料)を求めたものである。

5地裁の憲法判断分かれる

原告らの主張する憲法違反は、憲法24条1項2項、14条1項違反である。憲法条文は以下のとほり。札幌、大阪、福岡では、13条(幸福追及の権利の保障)違反も主張されてゐる。

24条1項:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本とし、相互の協力により、維持されなければならない。

2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

14条1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

原告らの主張をまとめると以下のとほり。

24条1項については、婚姻といふのは「両性」すなはち男女の間とは限らない。条文に「両性」とあるが、これは時代の変化により「両当事者」と読むべきである。

24条2項については、「配偶者の選択」以下の婚姻や家族などに関する事項について同性愛者は差別されてゐる。14条1項についても、同性愛者が差別されてゐる。

全ての事件において、原告らの請求は棄却されてゐるが、大阪地裁のほか全てで、判決理由中で、違憲状態にあるとか、違憲であるとかの言及がなされてゐる。この点でマスコミに大きく取り上げられ「『違憲』の是正を急げ」と社説で主張する新聞もある(令和5年6月9日朝日新聞)。

13条、24条1項については、全ての判決が、24条1項は、「両性」といつて明確に異性間の結婚についての原則を書いてあるもので、法律の規定が同性婚について触れてゐなくても憲法違反ではないと述べる。

全ての点で違憲ではないと判断したのは大阪地裁である。

24条2項について違憲であると判断したのは名古屋地裁、違憲状態にあると判断したのは東京地裁と福岡地裁である。

14条について、違憲であると判断したのは札幌地裁と名古屋地裁、他はいづれも違憲ではないとした。

上記のとほり、違憲であると判断したのは札幌地裁と名古屋地裁であり、名古屋地裁は、24条2項と14条の両方で違憲と判断した。

憲法違反であるのになぜ原告らの請求が認められなかつたのか。それは、国連の同性婚の必要性の勧告(平成29年)が出されたり、地方自治体のパートナーシップ制度が導入され始めたりしたのがいづれも最近(平成27年以降)のことであり、憲法違反であることは明白であるが、「国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない」(名古屋地裁)からである。民法や戸籍法の規定は、「これを国家賠償法1条1項の適用の観点からみた場合には、憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない」(札幌地裁)。

違憲状態にあるとする判決についても、原告らの請求を棄却した理由は同様である。

「相続」以外に不利益なし

24条は、上記のとほり、婚姻についての規定であり、1項は、この婚姻とは異性婚の原則を規定したものであり、2項は、その婚姻について、配偶者の選択など家族に関しての特則であるから、戸籍法などの規定が24条1項違反とはならないといつておきながら、24条2項違反または違憲状態にあるとする判断(東京地裁、名古屋地裁、福岡地裁)は矛盾している。

その点では、札幌地裁の判決の方が、24条全体が異性婚の規定であり、同性婚者は戸籍法などにより現実に差別されてゐるから、戸籍法などの規定は14条違反であるとする判断の方が無理がない。

しかし、札幌地裁に限らず他の判決でも、同性愛者のカップルが、「婚姻によって生じる法的効果の一切を享受しえない」(札幌地裁)とか、「同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえ(ない)」(東京地裁)といふ判断は妥当なものとは思へない。

そもそも、婚姻に伴ふ民法上の制度としては、「同居、協力及び扶助の義務(752条)、婚姻費用の分担(760条)、財産の共有推定(762条2項)、離婚時の財産分与(768条)、嫡出の推定(772条)、特別養子縁組についての夫婦共同縁組(817条の3)、夫婦の共同親権(818条)、配偶者の相続権(890条)と法定相続分(900条)、配偶者居住権(1028条)、配偶者短期居住権(1037条)、遺留分(1042条)」などであり、戸籍法では「夫婦について新戸籍を編成し(16条1項本文)、子が出生した場合には、子は親の戸籍に入ること(18条)」(以上東京地裁)などであり、同性婚者にとつて、工夫をすれば、相続以外にはあまり不利益はない。

異性の父親と母親との間に生まれ、養育されるといふのが子供の福祉にとって最も望ましい養育であるから、ゲイのカップルが幼児を養子にして養育することは認められるべきではない。シングルマザーや、離婚した母親の下で養育されても健全に育つ例が大多数であるとしても、異性の両親の元での養育を原則とすべきである。旧ソ連時代の一時期や、中国共産党の政策で、子供たちを親から引き離して養育することが共産党の育児の理想であるかのやうにいはれたことを想起すべきである。

以上の観点から、戸籍法などの規定が、「婚姻を、単なる婚姻した二当事者の関係としてではなく、男女が生涯続く安定した関係の下で、子を産み育てながら家族として共同生活を送り次世代に承継していく関係として捉え、このような男女が共同生活を営み子を養育するという関係に、社会の自然かつ基礎的な集団単位としての識別、公示の機能を持たせ、法的保護を与えようとする趣旨による」ものであり、戸籍法などの規定が、「異性間の婚姻の実を婚姻として特に保護する制度を構築した趣旨には合理性がある」(以上大阪地裁)のである。

いづれの判決も控訴されてゐるので、高裁から最高裁へと係属すると予想される。上記判決はいづれも世論調査や外国の例を詳細に引用してをり、このままでは同性婚賛成の風潮が多数であると裁判所が誤解する恐れがある。伝統的な婚姻の意義をさらに啓蒙する必要がある。(了)