公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2023.09.19 (火) 印刷する

露朝軍事技術移転は継続協議か 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授)

9月13日、ロシア極東部の宇宙基地で北朝鮮の金正恩総書記とロシアのプーチン大統領が会談した。多くのマスコミは、この会談で北朝鮮からロシアへの武器提供が決まるかのように報じていた。しかし、すでに7月末のロシアのショイグ国防相訪朝時に、ロシア軍がウクライナ戦争で使う自動小銃、砲弾、ロケット砲弾、地雷、冬用軍服などの提供は合意が成立し、自動小銃10万丁をはじめとする引き渡しが実際に始まっていた。金総書記がプーチン大統領に会いに行ったのは、直接的にはそのためではない。

自動小銃の見返りにドル

8月から自動小銃の提供が始まっていることを日韓のマスコミは一切報じていないが、7月末、北朝鮮の全世帯に、自動小銃に付けるためのストラップを各1本作って提出せよという命令が出た。北朝鮮側は予備兵力用の古い58式、68式自動小銃を提供しようとしたが、ロシア側に断られ、北朝鮮人民軍が現在使っている88式、98式50万丁の提供を求められた。すぐに50万丁は出せず、まず10万丁を提供した。その見返りに北朝鮮は、ロシア通貨のルーブルではなく、貴重な外貨のドルを受け取った。

昨年10月頃からロシアに提供された砲弾が大変古いもので不発率が5割以上だったことから、ロシアは古い兵器ではなく最新の兵器を出すことを強く求め、北朝鮮は倉庫に保管していた古い砲弾などでなく、軍需工場をフル稼働して新しく生産する兵器を出すことになった。その際、軍需工場労働者の食糧、兵器の素材や部品、軍服用の布など北朝鮮が現在持っていない物資をロシアが先に提供することになった。また、ロシアはそれらの兵器などの見返りに、これまで出していた精製石油に加えて小麦と小麦粉、天然ガス、ドルなどを出すと約束し、すでにそれらが北朝鮮に入っている。

8月に入り、北朝鮮の軍需工場は1日24時間稼働している。工員らはロシアからの小麦粉で作った団子などを食べている。飢えていた北朝鮮兵士らにも小麦粉などが配られ、すいとんなどにして一息ついているようだ。党、政府、治安機関にも小麦粉などが配られている。しかし、一般住民に配るほどの小麦粉はないようで、依然として貧困住民の餓死、病死、自殺は多発している。

北朝鮮はロシアの武器工場に

ただ、北朝鮮とロシアの間では、ショイグ国防相の訪問でも互いの要求がすれ違い、協議がまとまらなかった重大案件があったという。ロシアは兵力が不足しており、北朝鮮に10万人の特殊部隊派兵を要請し続けるが、北朝鮮は回答を先延ばしにしてきた。

一方、北朝鮮はロシアに原子力潜水艦の提供(レンタルも含む)かその技術の移転と、軍事偵察衛星の撮影技術移転を求めたが、それに対してロシアも回答していなかった。

金正恩総書記はこの二つの案件を解決するためロシアを訪れてプーチン大統領と会談したのだろう。首脳会談の結果、これら案件についてどのような妥協が成立したのか。漏れ伝わってくる情報によると、協議を続けることで合意しただけらしい。当面は北朝鮮がロシア軍の下請け工場となって武器を造って提供し、ドル、石油・天然ガス、小麦粉などをもらう国連制裁違反の取引が大々的に進むだろう。(了)