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2023.09.19 (火) 印刷する

対馬市の核ごみ処分場調査請願の意義 奈良林直(東京工業大学特任教授)

9月12日、長崎県の対馬市で、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定に必要な「文献調査」の受け入れを促進する請願が市議会で採択された。調査に応募するかどうかの最終判断は比田勝尚喜ひたかつなおき市長に委ねられており、27日までの市議会会期中に判断すると見られる。

文献調査は処分場設置に必要な調査の第1段階で、既に北海道の寿都すっつ町と神恵内かもえない村で行われている。処分場の立地には地殻変動の恐れが少ないことなど条件があり、複数の地点を調査することが必要で、3番目の自治体が手を挙げることの意義は大きい。他にも手を挙げる自治体が現れることを期待したい。

対馬は万葉集の時代から「防人さきもり」の島として大陸からの侵略を防いできた国防の島だが、最終処分場が誘致されれば、現代のエネルギー安全保障にも貢献することになる。

埋設処分が必要な高レベル廃棄物

2030年に向けたエネルギー政策の最重要課題は、原発の使用済み核燃料の再処理と高レベル放射性廃棄物の「地層処分」である。再処理工場では、使用済み燃料1トン当たり30キロほどの高レベル廃棄物が分離される。

この高レベル廃棄物の廃液をガラスの粉末とともに溶融し、ガラス固化体にする。この溶融ガラスをキャニスターと呼ばれるステンレス容器(外径43センチ、高さ134センチ)に充填し、密閉して地下300メートルよりも深い安定した地層に埋設処分する。

我が国では、最終処分法が制定されており、文献調査の次は、地質調査のためのボーリングを行う「概要調査」、そして地下施設を試掘する「精密調査」や埋設試験を実施し、複数の調査地点の中から最適地を選定する。

原発を将来活用するか否かにかかわらず、現存する高レベル廃棄物の地層処分場の設置は、我が国にとっての必須の課題である。我が国やフランスでは再処理してガラス固化体にするため、放射性廃棄物の容量を約4分の1に減少できる。

地元経済活性化とハイテク産業繁栄へ

高レベル廃棄物の地層処分には、我が国の優れたトンネル掘削技術が役立つ。埋設する膨大な数のガラス固化体を収容するため、トンネルは地下で枝分かれし、総延長は青函トンネル数本分になると見込まれている。

最終処分場の選定が済むと、数十年から100年以上にわたる土木工事が開始され、地元経済は潤う。写真1~4は、筆者がスウェーデンのアスポ島にある岩盤研究所を視察した時のものである。同研究所では、使用済み燃料の直接処分研究のため、銅の容器に使用済み燃料を入れて溶接で封じ込め、トンネルの側壁に開けた水平抗や垂直抗に大型の遠隔操作ロボット(写真1)を用いて挿入する。そしてベントナイトという放射性物質を吸着して漏水を遮断する特殊な粘土でその穴を塞ぐ。こうした最終処分場の建設とハイテクマシンを駆使した運営で、地元で200~300年にわたってハイテク産業が栄えることにもなる。

2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素の実質的な排出ゼロ)を達成するには、太陽光や風力など発電量が変動する再生可能エネルギーに頼るだけでは無理がある。そのため、世界の主要先進国では原発回帰が進み、使用済み燃料の処分場の設置へ向けて努力が払われている。

寿都町、神恵内村に加え、対馬市が文献調査に参加すれば、我が国もその先進国の仲間入りを果たすことになる。北海道と気候が似ている北欧のスウェーデンやフィンランドでは、最終処分場の立地選定が進み、2020年代後半から30年代初めには最終処分が開始されることになっている。我が国も岸田文雄首相の打ち出した「原子力発電の最大限の活用」へ向けて、地層処分場の設置により、人口や産業の衰退を食い止め、地方の新しい未来が開けるように、冷静で前向きな議論を期待したい。

写真1 スウェーデンのアスポ島の岩盤研究所内の金属密閉容器埋設ロボット

写真2 地下450メートルのエレベータ前で(左から2人目が筆者)

写真3 使用済み燃料を封入した遮蔽容器を運搬してくる大型トレーラー

写真4 使用済み燃料を銅の容器に封入した遮蔽容器(右)を粘土で封印した水平抗

 
 

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第439回 地層処分場はハイテク産業だ

9月12日に長崎県対馬市で高レベル廃棄物の地層処分場の文献調査受け入れ請願が採択。北海道では2つの自治体が既に手を挙げている。メディアは地層処分場の実態を報じないが、青函トンネル数本分の土木工事となる。重機やロボットが運転されるハイテク産業の基幹基地ともなりうる。新しい産業を誘致するポジティブな面にもっと目を向けるべき。