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2024.03.19 (火) 印刷する

「ミシェル・オバマ奇襲作戦」はあるか 島田洋一(福井県立大学名誉教授)

米大統領選は、接戦州の多くで前大統領のトランプ(共和党)が現職のバイデン(民主党)をリードという世論調査結果の発表が続いている。

そうした中、取りざたされるのが、正式に大統領候補を決める夏の民主党大会の直前に同党候補をバイデンから元大統領夫人のミシェル・オバマに差し替えるという「ミシェル・パラシュート作戦」である。

共和党が注目する元大統領夫人

共和党きっての論客で上院議員のテッド・クルーズは「バイデンがこのまま大統領候補になる確率が35%、ミシェル・オバマに替えてくる確率が65%」という言い方をしている。今年の共和党大統領予備選に名乗りを上げ、機関銃的な論争力で強い印象を与えた起業家ビベック・ラマスワミ(トランプの副大統領候補の1人でもある)は「今やミシェル・オバマに備えよ」と発信する。

大手ベッティング(賭け)会社の「来年、誰が米大統領になっているか」の予想では、多くが、1位トランプ、2位バイデン、3位ミシェル・オバマというランキングを出している。

他ならぬトランプも、ミシェル相手の方が、バイデン相手の場合より、若干差が縮まるとする有力世論調査会社ラスムッセンの数字を自身のSNSに投稿するなど、民主党の動向を注視している。

黒人女性の正副大統領候補コンビ?

さて、「ミシェル・オバマ奇襲作戦」とも呼ばれる「パラシュート作戦」のアウトラインと論理は以下のようなものである。

自分ではトランプに勝てないと悟ったバイデンが勇退を表明し、事前に十分根回しした上で、ミシェル・オバマを後継に推薦する。

本来、順番から言うと、副大統領のカマラ・ハリスを指名すべきところだが、「逃げ隠れ以外に能がない」と酷評されるハリスは副大統領として歴代最低支持率を更新中で、バイデン以上に勝ち目がない。

といって、「次」(2028年大統領選)の民主党最有力候補とされるカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムは白人男性であり、黒人女性のハリスを押しのけてニューサムというのは「ポリコレ(政治的適切さ)第一」の民主党世界では禁忌である。またハリス59歳、ニューサム56歳と年齢もハリスが上で、同じカリフォルニアを地盤とする政治家である(ハリスは同州選出の上院議員だった)。ニューサムではハリスの顔が完全につぶれる。

その点、ミシェルだとハリスより1学年上で、ハリス以上に純度の高い黒人である(ハリスの母親はインド人)。

大統領候補指名を受諾するに当たり、ミシェルがハリスをそのまま副大統領候補に起用すると宣言すれば、ハリスの顔も立つ。初の「黒人女性大統領・黒人女性副大統領コンビ」でトランプに勝負を挑むという構図である。

実質的な第3次オバマ政権

そして、大統領候補指名を受けたミシェルとハリスが並んで立つ民主党大会の壇上に元大統領のバラク・オバマが現れ、両女性の肩を背後から抱く演出を加えれば、「この女性2人では頼りないが、バラクがファーストジェントルマンとして実質的に仕切る第3次オバマ政権になるわけか。それなら安心できる」との印象になる(心ある保守派にとっては安心どころではないが)。

バラク・オバマは民主党員の間でいまだに人気が高い。大統領3選を禁ずる憲法上の制約さえなければ、もう一度オバマにやってほしいのだが、と考えている人も多い。

民主党がこの奇襲作戦を発動した場合、大統領選の行方がどうなるかは現時点で予想がつかない。もっともバイデンが自ら撤退を決意することが全ての前提である。最も予測がつかないのは、この点かもしれない。(文中敬称略)