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国基研ろんだん

2024.04.10 (水) 印刷する

トランスジェンダーの不都合な真実 島田洋一(福井県立大学名誉教授)

アビゲイル・シュライアー著『トランスジェンダーになりたい少女たち』が産経新聞出版から出され、ベストセラーになっている。大変、意義深い。

米で成立しないLGBT法案

米議会上院は、民主党が提出したLGBT差別禁止法案(英語の名称は一般的装いをこらした「平等法」)を審議するに当たって、公聴会にシュライアーを公述人の1人として呼んでいる(共和党の推薦)。逆差別を生むとか、性観念の曖昧な児童を危険な形で混乱させるなどとして、共和党が総じて法案に反対のため、予見し得る将来、成立の見込みはない。

一方、日本では2023年6月に、米民主党政権の圧力を受けた国会が、ろくに審議もせずLGBT理解増進法(私はLGBT利権法と呼んでいる)を通した。その結果、同法を論拠の一つとして、最高裁が同年7月以降次々と、女性の保護を危うくしかねない親トランスジェンダー判決を下した。主文や裁判官の個別意見を読むと、性自認、さらには複雑な「性の世界」に関する認識が非常に単純かつ甘い。

シュライアーの本は、まず誰よりも、国会議員や裁判官が熟読すべき内容と言える。

紛れ込む異性愛者

私は原書が出た直後に読み、昨年上梓した『腹黒い世界の常識』(飛鳥新社)でも主要点を紹介した。

そのうち「肯定的アファーメーションケア」の危険については櫻井よしこ氏が本研究所「今週の直言」で触れているので、以下では、もう一つの重要点「自己女性化性愛症オートガイネフィリア」を取り上げたい。

いわゆるトランスジェンダーには2種類ある。この点の専門的知見を、本書は一般向けにかみ砕いて紹介している。

第一類型は、「同性愛的トランスセクシュアリズム」で、幼少期から女性的な少年(あるいは男性的な少女)といった特徴が表れ、そのまま長じて、ゲイやレズビアンになるタイプである。

第二類型は「自己女性化性愛症的トランスセクシュアリズム」で、「女性になった自分」を想像して性的興奮を覚えるが、性的対象はあくまで女性というタイプである。青年期以後に特徴が表れ、例えば50歳代になって女装を始めるが、結婚相手に女性を選ぶ場合などは、このタイプに該当すると考えられる。

女性は安全でなくなる

この、トランスジェンダーの一部は自己女性化性愛症だという学説は、LGBT差別を助長するとして活動家の激しい攻撃を受けることになる。

しかしシュライアーは、経験に照らして、この説の正しさは否定できないと主張する(以下の訳文は島田)。

「自己女性化性愛症者の存在が重要な一つの理由は、その認識が、女性の安全スペース確保につながるからである。もしトランスジェンダーを自認する生物学的男性が、女性に対し完全に性的関心を持たないなら、いかに落ち着かない気分にさせられるとしても、彼らを女性専用スペースに入れることにほとんど危険はない。しかしトランスジェンダー男性の中に、女装や女性的姿態を取ることに性的興奮を覚える異性愛者が含まれるなら、話は変わってくる。性自認が女性の男性を女性専用スペースに入れることは正当化できなくなろう。そして自己女性化性愛症者が存在することは否定しがたい」

「本人の性自認」至上主義を掲げる人々にとって「不都合な真実」であろう。当然この真実は抑え込まれてはならず、オープンに議論されねばならない。(了)