米国人ジャーナリスト、アビゲイル・シュライアー氏の『IRREVERSIBLE DAMAGE』(取り返しのつかないダメージ)の邦訳が産経新聞出版から刊行された(邦題『トランスジェンダーになりたい少女たち』)。同書は全世界でベストセラーになったが、日本での出版・販売を阻止しようと卑劣な恐喝がなされている。ドイツを発信地とする放火の脅迫メールが産経新聞出版を筆頭に日本各地の大手書店に送りつけられた。放火を恐れて同書の販売を控える書店もある中で、アマゾンでの売り上げは総合1位が続いている。
●出版妨害に目をつぶるメディア
実は今回の事件の前、同様の事件が起きていた。大手出版社のKADOKAWAが日本語版を発刊する予定だったが、一部左翼勢力が強く抗議し、KADOKAWA本社前で集会を開くと警告した。KADOKAWAが出版を諦め、自由社会の基盤をなす出版・言論の自由が圧し潰されたかに見えた中での産経新聞出版の挑戦だった。
奇妙なのは、左翼勢力の一連の脅迫に朝日新聞や毎日新聞を筆頭とするリベラルメディアが沈黙を守っていることだ。シュライアー氏が描いた、米欧諸国の知的世界を浸潤する左翼思想が人間の心の健康を蝕み、家族を崩壊させていくという現実を、朝日も毎日も認めたくないのであろう。世間にも知らしめたくないのであろう。彼らの掲げる言論の自由は極めて選択的だ。
シュライアー氏の研究の発端はこの10年、米欧諸国で性別違和を訴えてトランスジェンダーを自認する少女が急増したことだ。背景にSNS(インターネット交流サイト)があり、学校による安易な是認がある。医療関係者まで追随して、取り返しのつかない手術に少女らを誘導している。
当事者ら200人、50家族への取材に加えて多くの専門家の見解及び専門書からの学びに基づいた同書から、トランスジェンダー問題を医療問題としてよりも社会的、政治的問題ととらえる病的なまでのジェンダー思想が透視される。カナダ・トロントの依存症メンタルヘルスセンター主任心理学者のケネス・J・ズッカー博士は、トランスジェンダーセラピーが流行する前からの専門家だ。同博士ら世界的名声を得ている精神医学、性科学、心理学の巨匠らは、性別違和の流行は異常であること、トランスジェンダーを自称する少女たちの言い分を全面的に受け入れ性転換に向けての治療を促す「肯定ケア」は、専門家として職務怠慢であり救済に見せかけた政治的意図だと喝破している。
●否定される国民の良識
社会的弱者の救済を過激に主張するこの種のWoke(ウォーク)勢力は、前述の朝日新聞を筆頭にわが国にも少なくない。一例が昨年7月、トランスジェンダーに関する判断を示した最高裁であろう。男性として生まれたトランスジェンダー経産省職員の無制限の女性用トイレ使用を最高裁が先走って認めた。国民の常識のはるか先を行くことで、国民の良識を否定し日本社会を根本から変えようとするのは傲慢にすぎる。トランスジェンダー問題の本質を理解するためにもわが国の最高裁裁判官及び立法府の政治家達全員に是非読んでほしい書である。(了)